訪問管理栄養士とは、療養者が住み慣れた自宅で安心して生活できるように、食事の面からサポートする専門職です。
「病院や施設ではなく、住み慣れた自宅で生活したい」といった希望を患者様や利用者様から聞いたことがあるのではないでしょうか?
また、個人的な希望だけでなく医療費の削減のため病院から在宅へと生活を移すという国策の流れができています。
国策により地域包括ケアシステムが促進され、地域ごとに助け合いの体制が整っていることも在宅療養者が増えている理由の一つです。
在宅療養中に食事のケアは欠かせません。
在宅療養者が増加するとともに、栄養食事指導の知識を持つ管理栄養士が必然的に求められています。
この記事では、訪問管理栄養士の仕事内容や求められることなどを詳しく解説していきます。
訪問管理栄養士を目指す方もぜひ参考にしてみてください。
目次
訪問管理栄養士とは
訪問管理栄養士は、療養者が住み慣れた自宅で安心して生活できるように、食事の面からサポートする専門職です。
多職種と連携しながら、療養者のQOLを向上させる栄養サポートを提供することで、療養生活の充実を支援します。
主には、高齢者や障がいを持つ人々の自宅を訪れ、健康維持や生活の質の向上をサポートします。
時にはそのご家族や介護者がもつ、療養者の食事や栄養面についての悩みや心配事に耳を傾け、生活の質が向上するように支援を行っていきます。
在宅訪問管理栄養士は、
療養者が在宅での生活を安全かつ快適に継続でき、さらにQOLを向上させることができる栄養食事指導(支援)の技術を備えた管理栄養士」である。
と定義されています。
「在宅訪問管理栄養士」制度は、公益社団法人 日本栄養士会と全国在宅訪問栄養食事指導研究会(現・一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)により認定された資格です。
訪問管理栄養士の仕事内容
在宅訪問管理栄養士は在宅で療養されている方のお住まいに訪問し、訪問食事栄養指導を行います。
医師の指導に基づき月1〜2回、30分以上の指導をすることが主な仕事内容です。
訪問食事栄養指導には以下の2種類があります。
- 居宅療養栄養指導(介護保険適用サービス)
- 在宅患者訪問栄養食事指導(医療保険適用サービス)
算定される点数や実施機関など詳細は異なりますが、どちらも食事に関する具体的な情報提供や指導を行います。
訪問管理栄養士の訪問先での仕事内容として、栄養指導のほかに
- 体重管理
- 病態の確認
- 誤嚥予防
- 買い物や調理の指導
- 補助食品の選定
- 献立の提案
がなどあります。
また、訪問食事栄養指導の仕事以外にはカルテの記入、栄養ケア計画書の作成、他職種とのミーティングなどもあります。
訪問管理栄養士に求められること
訪問管理栄養士に求められることとして、
- 個別栄養指導と生活習慣のサポート
- 問題点を聞き出すヒアリング
- 他職種との連携
が挙げられます。
それぞれ解説していきます。
個別栄養指導と生活習慣のサポート
在宅訪問管理栄養士は、訪問先の家庭で一人ひとりの食生活を観察し、栄養状態を判断します。
その上で、健康状態や食習慣に合わせた個別の栄養指導を行い、生活習慣の改善をサポートします。
それぞれ生活環境が異なるため一人ひとりに合う指導をしていく必要があります。
好き嫌いや料理のスキル、嚥下機能、家族構成などに配慮し適切な指導が必要です。
在宅では病院と違って、食べるものが周りに多くあるので制限が難しい場合もあります。
ご家族が買ってきたものを食べてしまって栄養バランスが崩れてしまう、といったこともありますので、ご家族の理解と支援が必要になります。
高血圧や糖尿病などの慢性疾患を持つ人に対しては、病状に応じた食事管理のアドバイスを行います。
問題点を聞き出すヒアリング
利用者の日常生活を踏まえ、適切かつ具体的で実行可能な栄養ケアが求められます。
そのためには、普段の生活習慣や食事内容をどれだけヒアリングできるかにかかっているといっても過言ではありません。
病院からの情報提供もありますが、そんな方が普段どんな生活リズムでどんな食生活をしているのか、ヒアリングを通して情報を集めるスキルが必要になってきます。
自宅訪問のうえで食事量やその内容が適正かどうかをヒアリングを通じて確認し、改めて相手の状況状態に適した食事内容を提案します。
他職種との連携
訪問食事栄養指導を行う上で欠かせないのが、他職種との連携です。
医師や看護師、ケアマネジャーなどの他職種と連携して栄養ケア計画書の作成・見直しや評価を行い、継続や終了の判断をします。
訪問管理栄養士の資格取得方法
訪問管理栄養士認定資格の取得方法について説明します。
訪問管理栄養士資格は、公益社団法人 日本栄養士会と全国在宅訪問栄養食事指導研究会(現・一般社団法人 日本在宅栄養管理学会)により認定されます。
受験資格として、
・日本栄養士会の会員であり、日本在宅栄養管理学会の正会員で管理栄養士であること
・管理栄養士の登録から5年以上経過し、病院・診療所・高齢者施設などにおいて管理栄養士として従事した日数が通算で900日以上(週休2日と仮定して、3年6か月以上の期間が必要です)であること
が設けられています。
①日本在宅栄養管理学会ホームページから申込み
在宅訪問管理栄養士 認定制度について|一般社団法人 日本在宅栄養管理学会 訪栄研 (houeiken.jp)
費用:会員 34,500円(税込)、非会員 43,500円(税込)(入会金、年度会費を含む)
(事前学習、ファーストステップ学習・セカンドステップ学習の受講料、テキスト代2,200円(税込)含む)
②e-ラーニングを受講
- テキストとe-ラーニングによる事前学習
- 確認テストを受ける(全体の6割以上で合格)
- e-ラーニングによる講義受講(ファーストステップ)
③認定試験を受ける*
試験料:11,000円(税込)
試験時間:60分
*願書受付は試験日の2か月前の1日より
④認定試験合格
⑤在宅訪問栄養食事指導実施・実践症例検討報告レポートを提出
認定試験合格通知後2か月以内に提出する
⑥「在宅訪問管理栄養士」認定
資格の有効期間:認定日より5年
認定料:11,000円(税込)
⑦「在宅訪問管理栄養士」認定の更新*
認定を受けてから更新するまでの5年間に日本栄養士会および日本在宅栄養管理学会が「在宅訪問栄養食事指導において必要な知識や技術を得るのに適している」と判断した学会・研修会などへの参加と発表などにより、20単位を取得して更新の申請をする
更新料:7,700円(税込)/ 5年ごと
この認定試験の合格率は6割ほどです。
筆記試験だけではなくワークショップまで受ける必要がある2日間の資格試験は、一般的な試験より労力がかかるといえます。
高いハードルの受験資格に加えて、労力が必要な試験にも関わらず約6割の合格率は、難易度が高いといえるのではないでしょうか。
訪問管理栄養士の働く場所や収入面について
実際に訪問管理栄養士の働く場所や、資格取得後の収入面について説明します。
働く場所
在宅訪問管理栄養士の主な職場は、
- 病院やクリニックなどの医療施設
- 薬局や歯科医院
- 栄養ケア・ステーション
といった医療機関や介護事業所です。
管理栄養士が訪問栄養食事指導を行えるのは、
- 居宅療養管理指導事業所(介護保険適用サービス)
- 在宅患者訪問栄養食事指導ができる事業所(医療保険適用サービス)
です。
基本的に訪問栄養食事指導を行うためには、この二つの事業所のどちらかに従事していることが必要ですが、事業所と契約して行うことも可能です。
日本栄養士会が運営する栄養ケア・ステーションに所属している管理栄養士やフリーランスの管理栄養士は、指定事業所と契約することで訪問栄養食事指導を行っています。
最近では薬局が在宅訪問栄養指導のための管理栄養士を採用するなど、徐々に活躍の場は広がっています。
収入面について
在宅訪問栄養指導を行うこと自体は、管理栄養士であれば実施可能です。
しかし、日本栄養士会と全国在宅訪問栄養食事指導研究会が認める「在宅訪問管理栄養士」を名乗るためには、認定試験を受けて合格する必要があります。
この資格は、2011年度にスタートしたばかりで現在普及が進められている段階です。
そのため在宅訪問管理栄養士の求人数は少なく、資格手当や資格取得者の優遇などの待遇アップの記載はほとんどないのが現状です。
しかし国は現在、介護保険制度で「地域包括ケアシステム」の実現を強化しているので、今後、在宅訪問管理栄養士の待遇がアップする可能性はあると考えられます。
まとめ
在宅訪問管理栄養士は自宅へ訪問することで療養者の方としっかり交流し、一人ひとりの環境に合う指導を行う必要があります。
責任が大きい反面、多くのやりがいを感じられる仕事です。
気持ちを込めてコミュニケーションをとることで、在宅療養者の方にあなたの訪問を楽しみにしてもらえることもあります。
高齢化や医療費増大に伴い、在宅訪問管理栄養士の需要はこれから伸びていくと考えられます。
しかし、認定者は1,274人(2023年度4月1日現在)程度しかいない希少な認定です。
キャリアアップをお考えの方やこれまでの経験を活かして栄養指導をしてみたい方は、時代のニーズに合う在宅訪問管理栄養士の仕事をぜひ検討してみてください。
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