糖尿病を理解するうえで、耐糖能という言葉の意味を理解しておくことはとても重要です。
耐糖能とは、血糖値を正常に保とうとする働きのことです。
この機能が低下してくることによって糖尿病が発症しやすくなってしまいます!
2型糖尿病は生活習慣に起因しているので、突然発症するわけではありません。
前段階として、耐糖能異常が指摘されたり、耐糖能異常の症状が現れているはずです。
糖尿病と耐糖能の関係を知ることで、糖尿病の改善や予防に役立てられます。
この記事を読むことで、耐糖能についての理解が深まるだけでなく、耐糖能異常の人がこれからどうすればいいのかまで知ることができます。
耐糖能異常を指摘されている方や、患者さんの指導にあたる医療関係者の方も、ぜひ今後に役立ててください。
目次
耐糖能とは血糖値を正常に保とうとする働きのこと
耐糖能とは血糖値が上昇したときに正常範囲内に保とうとする働きのことをいいます。
以下に詳しいメカニズムを分かりやすく書きました。
私たちが摂取した糖質は主に腸で吸収され、グルコースとなって血液中に放出されます。
この血液中のグルコース濃度のことを血糖値といいます。
簡単にいうと、血液中に糖分がどのくらいあるのかを数値で表したものです。
グルコースは様々な臓器のエネルギー源となりますが、特に脳は糖質をメインエネルギーにするので、血糖値を一定の値に保つことはとても重要なんですね。
一方で、上がりすぎてしまうと血管を傷つけるなど体に悪影響を及ぼします。
そこで、血糖値が上がると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて、グルコースを細胞内に取り込んで血糖値を下げます。
細胞内に取り込まれたグルコースはエネルギーとして使われますが、余った分は筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられたり、脂肪細胞に蓄えられます。
この、血糖値を正常に保つための一連のはたらきを耐糖能といいます。
耐糖能の判断基準
耐糖能の正常と異常の違いを下記にまとめました。
正常 | 異常 | |
HbA1c | 5.0〜5.2 | 5.3以上 |
血糖値の変化 | 80〜130mg/dlの間で緩やかに変動する | 急激に上下する(160mg/dl以上、80mg/dl以下) |
症状 | なし | 低血糖症状、(高血糖症状) |
低血糖症状:異常な空腹感、眠気、強い疲労感、いらだち、不安感、めまい、悪心など
高血糖症状:大食症、多飲、多尿、かすみ目、疲労、体重減少など
※高血糖症状は糖尿病が進行してから現れることが多く、はじめに自覚しやすいのは低血糖症状が多い
耐糖能異常が体にとって良くない理由
耐糖能異常が続くと、体にとっては以下の3つのような悪影響があります。
・糖尿病になる確率が高まる
・低血糖症状が起こりやすくなる
・代謝が低下して太りやすい体になる
それぞれ詳しく説明していきますので確認してみてください。
糖尿病になる確率が高まる
耐糖能異常者はいわば糖尿病予備群なので、糖尿病になるリスクはもちろん高くなります。
異常を指摘されたからといってすぐに糖尿病と診断されるわけではなく、耐糖能異常の状態にも関わらずその原因を放置した結果、糖尿病に進行します。
上記にも示した通り、耐糖能異常と判断されるのはHbA1c:5.3以上です。
糖尿病を疑う基準はHbA1c:6.5以上であり、かなり差がありますよね。
つまり、糖尿病を疑う頃には耐糖能はかなり悪化しているということになります。
耐糖能異常は、生活習慣に何らかの問題があるということなので、できることから取り組んで早めに改善していきたいですね。
低血糖症状が起こりやすくなる
耐糖能異常では低血糖症状が起こりやすくなります。
血糖値の変動は、急激に上がった場合、下がるときも急激であるという特徴があります。
これは、血糖値の急上昇に伴ってインスリンが大量に分泌され、結果的に血糖値が一気に下がってしまうことで起こってしまうんです。
このようなメカニズムで、耐糖能異常では低血糖症状が起こりやすくなるんですね。
下記のグラフは健康な人と耐糖能異常がある人の食後の血糖値変動を示したイメージ図です。
耐糖能異常がある人の血糖値の変動は、健康な人に比べると上下の幅が大きいことがわかりますよね。
低血糖のピークは食後2〜4時間と個人差がありますが、一般的に食後2時間に以下のような症状があれば低血糖症状を疑います。
【低血糖症状】
異常な空腹感、体のだるさ、冷や汗、動悸、ふるえ、いらだち、不安感、悪心、眠気、脱力、めまい、強い疲労感、集中力の低下、混乱、言葉が出ない、不安、抑うつ
また、夕方は1日のうちでエネルギー切れを起こしやすく、低血糖症状に注意が必要な時間帯といえます。
昼食から夕食まで6時間以上空く場合は、間食で糖質を摂ることが有効です。
代謝が低下して太りやすい体になる
耐糖能異常では代謝が低下して太りやすい体になります。
基礎代謝が低下すると、食べたものがどんどん体に蓄積していき、溜め込み体質になってしまうんです。
人間は糖質をメインエネルギーにして生きています。
脂質やタンパク質もエネルギー源になりますが、エネルギー産生効率が糖質に比べて劣ります。
しかし、耐糖能異常では糖質をエネルギーに変える能力が低下しているので、脂質やタンパク質をメインエネルギーにせざるを得ません。
また、耐糖能異常の原因は脂質を摂りすぎている場合が多いので、脂質をメインエネルギーとした脂質代謝になっている可能性があります。
脂質代謝では消費カロリーに対してエネルギー産生が追いつかず、体は生命危機を感じます。
そこで、基礎代謝を落として消費カロリーを節約して対応するわけですね。
基礎代謝が低下すると、食べる量が少なくても太りやすい体になってしまうんです。
耐糖能異常が起こりやすい人の特徴
耐糖能異常の人の食生活には大きな特徴があります。
これから説明していく4つの特徴に気をつけていけば、耐糖能が改善する可能性も高いので、ぜひ読み進めてみてください。
カロリーの摂り過ぎ
カロリーを摂り過ぎると肥満の原因になりますが、この肥満こそが耐糖能異常に大きく関わっているんです。
脂肪には皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、問題となるのは内臓脂肪です。
内臓脂肪は脂肪細胞が肥大化するという特徴があり、肥大化した脂肪細胞はTNF‐αやIL-1βなどの炎症物質を出します。
慢性的な炎症があることで、インスリンが作用するための化学反応を起こすことができず、糖質を細胞に取り込めなくなります。
そのため、糖質が血液中に余って血糖値が上がりやすくなり、その状態が続くことで糖尿病になってしまう人が多いんです。
カロリーを摂り過ぎている人は肥満になるリスクも高く、結果的にインスリン抵抗性や耐糖能異常を引き起こしてしまうので注意しましょう。
炭水化物の摂取量が少ない
炭水化物の摂取量が少ないことも、耐糖能異常の原因のひとつとなります。
耐糖能を維持するためには、食物繊維やビタミン・ミネラルなど、糖質をエネルギーに変えるために必要な栄養素を総合的に摂取することが重要です。
お菓子や加工食品などの精製砂糖ばかりを摂取していると、糖質をエネルギーに変えられず、血液中に余ってしまい血糖値を上げてしまいます。
そのため、糖質だけではなく、食物繊維を含む炭水化物をしっかり摂ることがポイントです。
ダイエットで糖質制限が流行っていますが、炭水化物の摂取量が減ることで耐糖能異常になるリスクが一気に高くなるので、注意しなくてはなりません。
脂質の摂り過ぎ
脂質が過剰になると、相対的に炭水化物の摂取量が減ってしまいますよね。
そのため、体はメインエネルギーを糖質から脂質に切り替えて脂質代謝となります。
脂質代謝になるとランドルサイクルという現象が起こるのですが、これにより糖質の代謝回路がブロックされ、糖質をエネルギーに変えることができなくなります。
使われない糖質は血液中に余るので、結果として血糖値を上げてしまうんですね。
現代では炭水化物の摂取量が減ってきている反面、ファストフードや外食チェーンの増加により簡単に脂質過剰となってしまいます。
カロリーオーバーによる肥満のリスクもありますが、脂質そのものが耐糖能異常の原因となることも覚えておかなくてはなりません。
ビタミンとミネラルが不足している
ビタミン・ミネラルは糖質をエネルギーに変えるために必要不可欠です。
食べた糖質をエネルギーにできないと、どうなると思いますか?
体の中で余ってしまうので、脂肪として蓄えようとしてしまうんです。
4−1「カロリーの摂り過ぎ」でもお伝えしたように、脂肪が蓄積すると血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなってしまいます。
ビタミン・ミネラルが不足すると、糖質をエネルギーに変えられず、更に脂肪が蓄積することで、結果的に耐糖能異常になってしまうんですね。
体のエネルギーは複雑な代謝回路で作られています。
家造りに例えるなら、糖質は家の材料となる木材で、ビタミン・ミネラルは大工さんといったところでしょうか。
しかし、現代では野菜や果物の摂取量が不足していることから、ビタミン・ミネラルが必要量に達していないというデータが多くあります。
エネルギー源のごはんやおかずだけではなく、副菜や果物も積極的に食べましょう。
実は痩せている人でも耐糖能異常は起こる
4−1「カロリーの摂り過ぎ」のところで、耐糖能異常と肥満についてお伝えしましたが、実は痩せている人にも耐糖能異常は起こるんです。
順天堂大学が、痩せた若年女性を対象に耐糖能異常の研究をしたところ、標準体重者に比べて耐糖能異常の割合が顕著に高かったと発表しています。
この痩せ型若年女性に共通する特徴を以下にまとめました。
・食事量が少ない
・糖質からのエネルギー摂取割合が少なく、脂質からの摂取割合が高い
・インスリン抵抗性や脂肪組織障害を生じている(代謝的肥満)
・運動量が少ない(体力レベルが低い)
食事量が少ないこと(カロリー不足)は肥満と真逆であるように思いますが、これも耐糖能異常の原因になるんです。
エネルギー源が不足すると、体は自分の脂肪や筋肉を分解してメインエネルギーにしようとするので、先ほどお伝えしたランドルサイクルが起こり、糖質を処理できなくなります。
加えて、脂質からのエネルギー摂取の割合が高いことで脂質代謝となり、耐糖能異常を助長させている可能性があります。
また、運動量が少ない(=筋肉が少ない)ことで、グリコーゲンとして蓄えられる糖質量も少なくなり、血液中に糖質が余りやすいことも、耐糖能異常の要因であると考えられます。
このことから、痩せていても糖尿病のリスクがあるということがわかりますよね。
食事や運動などの生活習慣が乱れている場合は、痩せている人であっても注意が必要です。
出典:順天堂大学 食後高血糖となる耐糖能異常が痩せた若年女性に多いことが明らかに
耐糖能を改善させる6つのポイント
耐糖能を改善するには、生活習慣を見直す必要があります。
具体的な方法を紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
適正カロリーを意識する
耐糖能を改善するためには適正なカロリーを摂取することが重要です。
摂取カロリーが多すぎると肥満の原因となり、インスリン抵抗性により耐糖能異常を起こします。
逆に、摂取カロリーが少なすぎると、エネルギー不足で体を分解するため脂質代謝に傾き、耐糖能異常を起こします。
まずは、自分の適性カロリーがどのくらいなのかを知る必要があります。
メディカルズ本舗というサイト上で計算できるので調べてみてください。
つぎに、自分がどのくらいカロリーを摂っているのか把握しましょう。
カロリー計算アプリなどを活用して、1週間くらい続けて入力してみてください。
自分が思っているよりも食べている、もしくは食べていないかもしれません。
最後に、適正カロリーに近づけるように食事を整えていきましょう。
カロリー計算が面倒くさいと思う人もいるかもしれませんが、毎日計算する必要はありません。
ごはんやおかずの量などをある程度決めておけば、カロリーが大きくはみ出ることはないので、はじめだけ頑張ってみましょう!
PFCバランスを整える
適正カロリー内であれば何を食べてもOKというわけではありません。
糖質をメインエネルギーにできるように、他の栄養素とのバランスが大切です。
具体的にはP(タンパク質)13〜20%、F(脂質)20〜25%、C(炭水化物)50〜60%の割合が理想的です。
とはいっても、実際どんな食事なのかイメージがつきにくいですよね。
このバランスを自然に整えられる食事スタイルが、和食定食なんです!
和食定食にすることで、必要な栄養素がほぼ全て充足され、耐糖能改善につながります。
食事内容は【ごはん・芋類・おかず・サラダ・味噌汁・果物】です。
ごはんは血糖値を上げやすいので、ごはんの量を抑えて芋やかぼちゃなどの炭水化物を足すことも、耐糖能異常には有効です。
おかずの量が多いと脂質過剰になりやすいので注意しましょう。
PFCバランスを整えていくうえで気をつけたいのが、食事内容を一気に変えないということです。
耐糖能異常の状態でいきなり炭水化物の割合を増やすと、血糖値の乱高下による低血糖症状が強くなったり、食物繊維を消化できずに胃腸症状が出現するなど、体調不良を起こす可能性があります。
こういった不調をできるだけ避けるために、PFCバランスを5%ずつ調整していくことをおすすめします。
【例:適正カロリー2000kcalの場合】
2000kcal✕0.05(5%)=100kcal
炭水化物を100kcal増やして、脂質を100kcal減らす
体調をみながら1〜2週間毎に適正バランスへ近づくよう調整する
【食材の具体例】
炭水化物 | ごはん100g(156kcal)、食パン6枚切り(150kcal) さつまいも100g(126kcal)、バナナ1本(84kcal)、みかん1個(37kcal) |
脂質 | シーザーサラダドレッシング大さじ1(73kcal) オリーブオイル大さじ1(107kcal) 豚バラ肉100g(386kcal)→豚肩ロース100g(263kcal) 鶏もも肉皮付き(190kcal)→鶏むね肉皮なし100g(105kcal) |
食物繊維を意識的に摂る
食物繊維は糖質の消化吸収を緩やかにして血糖値の乱高下を防いでくれます。
食事のときはサラダなどの野菜を先に食べることで、血糖値の上昇を緩やかにすることができますよ。
また、炭水化物を食べるときは、食物繊維が多く含まれている低GIの食材を選びましょう。
下記に各食品のGI値をまとめたので参考にしてみてください。
GI値 | 食品 |
100 | ブドウ糖 |
90〜99 | パン |
80〜89 | 白米、うどん、じゃがいも、もも、人参 |
70〜79 | 玄米、赤飯、コーンフレーク |
60〜69 | 白砂糖、大麦パン、パスタ、かぼちゃ、長芋、里芋 栗、パイナップル |
50〜59 | おかゆ、ライ麦パン、全粒粉パン、オートミール、そば 黒糖、さつまいも、はちみつ、バナナ、ぶどう |
40〜49 | 牛肉、豚肉、鶏肉 |
30〜39 | リンゴ、洋梨、ヨーグルト、キウイ、ブルーベリー オレンジ、グレープフルーツ |
20〜29 | 杏、いちご、牛乳 |
植物油脂を控える
食物油脂に含まれる油(オメガ6、オメガ3)は体の構成材料になりにくいため、エネルギーとして使われやすいという特徴があります。
エネルギーとして使われるというといいイメージを持つかもしれませんが、脂質代謝に傾いてしまうということなので、耐糖能を改善するためには避けたい食材です。
特に、調理油に多く含まれるオメガ6は、揚げ物や炒め物などで過剰になりやすいので気をつけましょう。
また、健康のために亜麻仁油やえごま油を積極的に摂っている人もいますが、油単体では過剰になりやすいのでおすすめしません。
オメガ3は魚などに含まれているので、自然な食材で摂れるのが理想的です。
【オメガ6が多い油】
紅花油(杯リノールタイプ)、米油、ごま油、サラダ油、綿実油、大豆油、グレープシードオイル
【オメガ3が多い油】
亜麻仁油、えごま油、魚油
調理油におすすめの油は、オリーブオイル(オメガ9)やココナッツオイル、ラード、バターなどの飽和脂肪酸が多く含まれている油です。
しかし、どれも使用量が多くなると脂質過剰になるので、必要最低限にとどめておきたいですね。
果物を食べる
果物には、抗糖尿病効果や抗肥満効果があることがわかっていて、耐糖能を改善するためには欠かせない食材です。
4−3「脂質の摂り過ぎ」のところで、脂質代謝に傾くと糖質をエネルギーに変換する回路がブロックされるというお話をしました。
果物に含まれる糖質(フルクトース)はこのブロックされている部分よりも先の代謝回路から入ってくるので、止まっていた糖の代謝を回復させてくれるんです。
また、果物には食物繊維やビタミン・ミネラルなどの糖の代謝を上げる栄養素が豊富に含まれているので、耐糖能を改善する救世主のような存在なんですね。
果物は太ると思って避けている人も多いかもしれませんが、実際に果物で太ったという人はいません。
現代人に不足している栄養素が手軽に摂れるので、積極的に取り入れていきましょう。
運動する
運動は、耐糖能の改善をスピードアップさせる効果があります。
4−1「カロリーの摂り過ぎ」のところでお話したように、肥満の人はインスリン抵抗性によって血糖値が上がりやすいという特徴があります。
インスリンが効きづらいことで、血液中の糖が細胞に取り込まれず、エネルギーにできない状態です。
そこで、インスリンの代わりになるのが運動なんです。
作用機序はインスリンと異なりますが、運動は糖を細胞内に取り込む手助けをしてくれます。
実際に、運動がインスリン抵抗性や耐糖能を改善したという研究データは多数あり、糖尿病の人へ生活習慣の指導をするときも運動は必須ですよね。
とはいえ、運動はつらいと感じる人もいると思います。
無理にきつい運動をする必要はありません。
運動強度よりも毎日継続することが重要なので、自宅でのスクワットや短時間のウォーキングなど、自分が続けられそうな内容ではじめてみましょう。
食事改善と運動を併用することで、耐糖能改善のスピードは格段にアップしますよ。
まとめ
耐糖能異常を放置すると糖尿病を発症するリスクが高まります。
今のうちから生活習慣を改善することで、発症リスクを下げておくことが大切ですね。
ただ、全ての習慣を一気に変えることは難しいと思います。
まずは「耐糖能を改善させる6つのポイント」の中から、どれか一つでいいので意識してみてください。
ひとつひとつが習慣化すれば、知らない間に健康的な生活を送ることができているはずです。
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