管理栄養士の仕事は絶対なくなることはありません。
「管理栄養士の仕事は将来なくなるのではないか」
ネットを調べるとこんな記事がたくさん出てきませんか?
管理栄養士は人の健康に関わる、なくてはならない仕事ですが、需要があるのに将来なくなると心配されています。
理由の1つは「管理栄養士は試験の合格率が高いのに、就職先が少ないから仕事がなくなる」というものです。
実際に2022年2月に行われた管理栄養士試験に合格した人は約10,692人で、毎年約10,000人前後が管理栄養士になっています。
【過去5年間の管理栄養士国家試験の合格者数】
管理栄養士国家試験 | 合格者数 |
2023年(第37回) | 9,254名 |
2022年(第36回) | 10,692名 |
2021年(第35回) | 10,292名 |
2020年(第34回) | 9,874名 |
2019年(第33回) | 10,796名 |
参考:厚生労働省「第36回管理栄養士国家試験の合格発表」
毎年10,000人ずつ増えていれば、管理栄養士があふれて働く場所がなくなるんじゃないかと考えてしまいますよね。
さらに管理栄養士の仕事がなくなると言われる理由のもう一つにAIの登場があります。
「AIが管理栄養士の仕事を奪い、仕事がなくなるのではないか」ということです。
ただ実際の管理栄養士の仕事は、日本の急速な高齢化社会への進行で病院や福祉施設などでの栄養指導の需要はますます増えていきます。
さらに人の気持ちに寄り添うコミュニケーションなどはAIには苦手な部分で、人である管理栄養士にしかできないことです。
ですので、飽和状態やAI化が進んでいるからといって仕事がなくなることはありません。
そこでこの記事では、管理栄養士の仕事がなくならない理由を具体的に説明していきます。
また将来的にスキルアップし活躍できる場面も紹介します。
管理栄養士の将来性に不安を感じてしまう方にこの記事をご覧いただければ、最後には「管理栄養士が将来なくなる」という不安が取り除かれているでしょう。
ぜひ最後までご覧くださいね。
目次
将来管理栄養士の仕事がなくなる可能性は低い
管理栄養士の将来性を心配する声もありますが、今後の需要はますます拡大していきます。
なぜなら、日本の高齢者人口の高まりやそれに伴う健康志向の高まりが関わっているからです。
医療費や介護給付費の負担も大きくなることが予想されるため、国を挙げての健康志向が強まっています。
そんな中、生活習慣病の予防と改善、ダイエット、スポーツ、栄養クリニックの分野などで管理栄養士の需要は高まる一方です。
管理栄養士が実際になくなっていくのはとても低いと考えられています。
具体的な理由について紹介していきます。
高齢化に伴う生活習慣病予防への栄養指導
高齢化が急速に進行している中、個人の生活の質の低下を防ぐために、健康づくりを通した栄養指導は必須になると考えられます。
現在日本は、65歳以上の人口が全人口の28.9%を占める超高齢化社会になっています。
日本の総人口は減少しているのに対し、高齢者は右肩上がりに増えているのが現状です。
年齢を重ねると、若い時とは異なる食事の問題に直面する方が多くなります。
例えば、不健全な生活の積み重ねによって内臓脂肪型肥満となり、生活習慣病が原因となって食事の内容に制限が必要になる場合があります。
また、活動量が減ることで食事の量が減ってしまったり、咀嚼や嚥下の機能が衰えることで食べ物が食べにくくなってしまったりなどの問題も起こります。
このような問題を食事の面から予防し、悪化を防ぐことができるのが管理栄養士なのです。
食事に制限があっても、少ない食事量であっても、食べにくい状態であっても、必要な栄養を摂取しなければ健康は維持できません。
栄養指導は高齢者の健康維持の基礎となるので、将来的にも管理栄養士の需要は続いていくと言えます。
健康志向への高まり
テレビなどでよく「健康、健康」と騒がれるようになってきました。
なぜなら社会保障制度の持続可能性を高めるためにも、国を挙げて健康を目指そうという取り組みが広がってきているからです。
国が健康志向を高めようとしているのに、管理栄養士の仕事をなくそうとするのは考えにくいですよね。
今後ますます活躍の場が広がっていくと考えられます。
平均寿命が世界的にも長い日本ですが、事実、平均寿命と健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる寿命)には差があり、日常生活に制限のある不健康な期間は男性で約9年、女性で約12年と言われています。
長生きしていても医療費や介護を必要とする期間が長くては人生の楽しみも減ってしまいます。
本当に延ばしたいのは健康寿命の方なのです。
健康寿命を延ばすためには日頃の食生活が重要ですが、食生活は習慣ですのですぐに改善することが難しかったり、自分一人では途中で挫折してしまいそうになったりします。
そんな時に栄養士の専門知識とサポートがあれば、より健康に近づきやすくなります。
そのため将来的にも管理栄養士は必要とされるのです。
AIの登場による管理栄養士業界の変化
管理栄養士業界が危ないと言われるもう一つの原因に「AIに管理栄養士の仕事が奪われる」のではないかという話があります。
確かにAIの成長速度は早く、一部の企業ではAIを取り入れた献立の提案などをすでに実施しています。
画像認識のAI技術を用いて、株式会社ライオンが提供している「リード レシピアシスタント」というスマートフォンアプリは、LINEで食材の画像やテキストを送信するだけで、AIがその食材を使ったレシピを提案してくれるアプリが開発されています。
毎日栄養バランスの整った食事を考えるのは決して簡単なことではありません。
実際、自分の毎日の食事がどのような栄養バランスになっているのか、把握できていない人がほとんどではないでしょうか。
そこでスマートフォンアプリなどの活用で、栄養バランスの管理が行いやすくなってきているのです。
ただ、AIにも得意なこと、不得意なことがあります。
現時点ではそこをしっかり理解しておくことで、管理栄養士として将来性の不安は必ず少なくなります。
まずはそこをしっかり理解していきましょう。
AIが担うことができる作業
現在、AIの進化は目覚ましく、今まで人間が担っていた仕事をAIにまかせるという分野も増えてきています。
次に、AIが得意とする作業を一部ご紹介します。
栄養計算
AIが搭載されたアプリなどに食べたものを入力するだけで、その食事の栄養やカロリーを計算してくれるため、より簡単に栄養やカロリーの管理が行えます。
自分がどれくらい栄養やカロリーを摂取したのか簡単に把握できるようになるため、次の献立も改善しやすくなるでしょう。
また、AIが栄養を計算してくれることで、自分の食生活に不足している栄養素を明確にすることができるという点も、大きな魅力の一つといえます。
バランスが整った食事を心がけているつもりでも、何かしらの栄養素が欠けてしまっているというケースは少なくありませんので、栄養バランスの把握という点でもAIは重要な役割を果たしてくれるのです。
栄養診断
AIは文章の構成作成や、図解資料の作成も得意です。
そのため、栄養指導の際に使用する資料の作成には大きく力を発揮してくれます。
栄養状態の評価であるスクリーニングはAIによって一部代替されるかもしれません。
人による目視確認と、AIにも同時に評価させることで、より正確な評価ができる可能性があります。
特にスクリーニングは管理栄養士個人の経験や知識の差が出やすいところでもあります。
その点を考慮するとAIによる確認も合わせてできるのは大きなメリットです。
献立の提案
近年ではAIを活用した献立作成アプリが開発され、栄養価、価格、食材の組み合わせ、色合いなどを指定した条件に従って、献立を自動的に作成してくれます。
これにより栄養バランスやコスト管理などの自動化が可能になってきています。
高齢者施設や福祉施設向けの食事提供では、栄養価の細かな計算やコスト管理の複雑さに加え、飽きのこないバラエティに富んだメニューの開発が必要であり、施設や管理栄養士にとって献立作成の負担が大きいという課題がありました。
必要な栄養素を満たした献立の作成や必要な食材の発注、給食管理業務に付随する書類作成などのほとんどはAIが得意とする領域です。
AIに代用できない管理栄養士にしかできないこと
ここまでAIが活躍する作業をご紹介してきましたが、このように完璧に思えるAIにも弱点はあります。
具体的には
・人間との情動的な共感を得ることができない
・自分から課題や問題点を見つけない
・やるべき作業や条件を設定しなければ働かない
・特定の課題だけしか解決しない
・話の流れや行間を読むことができない
などが挙げられます。
逆にこれらのことが人である管理栄養士が得意なことなのです。
では管理栄養士が必要とされる場面を詳しくご紹介します。
寄り添った栄養指導
栄養の計算や献立の作成だけならAIにもできますが、誰もがAIから「明日からこの献立にしてください」といわれて、すぐに変更できるでしょうか?
今までの食生活・習慣を突然大きく変えるのはストレスですし、「そんなこと言われてもできない」という反抗心さえもでてくるかもしれません。
それよりも管理栄養士が、その人ならではの生活環境や食の好みを知り共感し、柔軟に対応してくれるほうがすんなりと受け入れやすいのではないでしょうか。
これこそが人間にしかできない寄り添った栄養指導なのです。
食べる相手に共感し、きめ細やかな配慮ができるのは人間だけです。
そして食や健康にまつわる仕事は、医療スタッフや介護職員、調理師などと関わり合いながらのチームプレーです。
どの職場でも、コミュニケーション力を備えた人材が求められます。
また相手に指示を出したり、現場をうまくまとめたりする力も必要です。
一人一人に合わせた献立の管理
AIは栄養バランスが整った献立を何通りも学習して、完璧な献立を作成します。
しかし
「同じような献立が続かないようにしよう」
「栄養のバランスだけでなく、楽しんで食べてもらえる献立にしよう」
というような、想像力を働かせ、相手に寄り添った献立を作成することは、現段階のAIには不可能なのです。
おいしくて楽しい食事は生活の質を高めることにもつながります。
想像力を働かせたり、一人ひとりに合わせた献立を提案できるのは、人間にしかできない重要なことなのです。
人にしかできないコミュニケーション
栄養指導をはじめとした業務では、相手の生活習慣などの情報を聞き取らなければなりません。
相手の趣味や経験を理解し、話を膨らませることができるのは人間だけです。
話を膨らませ、必要な情報を聞き取るため、様々な経験をして引き出しを増やしておきましょう。
特に病院などで働く場合、医師や看護師との連携に加え、患者さんとの交流もあります。
そのため、協調性やチームで仕事をしている意識を常に持ち、一人ひとりに合わせて適切なアドバイスをしましょう。
赤ちゃんから高齢者まで、職場によっては幅広い年代や生活習慣の人とのコミュニケーションが必要とされます。
心があるコミュニケーションはAIでは難しく、人にしかできない強みなのです。
管理栄養士が働きが期待される職場
ここまでAIが得意なこと、苦手なことを紹介してきました。
言えるのはAIの得意分野に立ち向かうより、AIの得意なことを上手に使いつつ、逆にAIの苦手なことをカバーできるような働き方が求められていくと考えられます。
管理栄養士は活躍できるフィールドが広く、自分の努力次第でキャリアアップが見込めます。
次に、私たち管理栄養士が活躍できる職場を紹介していきます。
病院や福祉施設
今後高齢者がどんどん増えていくことが予想でき、介護福祉施設や介護老人保健施設での管理栄養士の需要がますます高まっています。
福祉施設では、厨房管理、高齢者の栄養管理、栄養指導等の仕事があります。
病院では患者さんの栄養管理、栄養指導、医師や看護師と連携した栄養管理も必要とされます。
保健所などの公的機関
地方自治体や保健所、保健センターなどの行政機関で働く管理栄養士および栄養士は、「行政栄養士」と呼ばれます。
公務員として勤務するため、管理栄養士国家試験と公務員試験の2つの試験に合格しなければなりません。
公的機関での主な使命は、地域住民の健康を守ることです。
地域住民などに対する栄養相談や健康相談、講習会の開催などに携わります。
アスリートなどが所属する団体
アスリートが必要とする食事や栄養素は一般の人の食事とは異なるため、専門的な勉強をして知識を備える必要があります。
この仕事では選手はもちろん、監督やコーチ、チームスタッフなどスポーツに関わる人とコミュニケーションが必要になってくるため、管理栄養士自身もスポーツを理解しようとする気持ちが大事です。
スポーツ分野に関連する仕事に携わる管理栄養士は男性も女性もおり、性別は関係なく仕事をしていくことができます。
この分野で働く場合、スポーツに情熱を注ぐ人たちと深く関わっていくことになるため、自らもスポーツが好きであると仕事により前向きに取り組めるかもしれません。
管理栄養士の新たな役割やチャンスが生まれるスキル
管理栄養士という職業も、今まで通りのやり方ではなっています。
これから新たな管理栄養士が求められるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
管理栄養士「+α」の価値をつけるスキルを解説します。
日本糖尿病療養指導士(CDE)
日本糖尿病療養指導士とは、糖尿病に関する知識を幅広く持ち、主に食事、運動、薬について患者さんに寄り添ったサポートを行うエキスパートです。
糖尿病治療の一定の経験を有した上で、糖尿病療養指導士の資格試験に合格した医療スタッフのことを指します。
資格試験は
- 看護師
- 管理栄養士
- 薬剤師
- 臨床検査技師
- 理学療法士 のいずれかの有資格者です。
日頃から病院などで糖尿病患者への療養指導に取り組んでいることが、合格への鍵となります。
資格を取得することで糖尿病の方など生活習慣病の方へ、より専門的な指導ができるようになります。
糖尿病療養指導士の資格は看護師や薬剤師の方なども取得できますが、その中でも食事のスペシャリストは管理栄養士だけです。
チームで糖尿病の予防・改善をしていく上でも管理栄養士のスキルと併せて貢献できることが最大のメリットといえます。
介護支援専門員 (ケアマネージャー)
介護支援専門員は、「介護保険法」に規定された専門職で、居宅介護支援事業所や介護保険施設に必置とされている職種で、一般にケアマネジャー(略してケアマネ)とも呼ばれています。
施設等で介護サービス計画(ケアプラン)の立案を担い、高齢者の方と、介護サービスの利用調整や関係者間の仲介役となり、自立した日常生活の支援をしています。
ケアマネの受験資格を得るには3つの方法があります。
- 国家資格(法定資格)を持ち、実務経験5年以上
- 相談援助業務に従事し実務経験5年以上
- 介護等業務に従事し 実務経験5年以上または10年以上
管理栄養士は1つめの国家資格を持ちという条件を満たすことになります。
あとは実務経験5年という条件だけです。
福祉施設で働いている管理栄養士に最適な資格と言えます。
こうした介護施設では、入居者の要支援もしくは要介護などの介護度を考慮したうえで、飽きのこない献立を考えることのほか、美味しく、そして楽しく食事がとれるように工夫しなければなりません。
また、主に管理栄養士などが行う栄養管理における指導については、介護職員、看護師などから入居者の健康状態を把握するために情報交換も必要となるでしょう。
自社で調理を行うような介護施設であれば、刻み食や柔菜食などの加工方法など、どのような状態で食事が提供されているか、現場をチェックすることも栄養士の役目となります。
公認スポーツ栄養士
公認スポーツ栄養士の資格を取得すると、アスリートや競技者に対し、栄養面からの助言・提案ができるようになります。
公認スポーツ栄養士は、公益社団法人 日本栄養士会および公益財団法人 日本スポーツ協会の共同認定による資格です。
審査に必要な申請資格は
- 管理栄養士であること
- 公認スポーツ栄養士養成講習会を受講しようとする年度の4月1日時点で満22歳以上であること
- スポーツ栄養指導の経験があること、またはその予定があること
- 日本スポーツ協会と日本栄養士会が認めた者
スポーツをやっていた経験を持つ人が、栄養の面でアスリートをサポートしたいと考えている人に適している資格だと考えられます。
競技者、監督、コーチ、トレーナー、競技団体などのスポーツの現場から、競技者の自己管理能力を高めるために栄養・食環境の整備などが求められます。
スポーツ現場での専門的な栄養サポートに対するニーズは高まっているのです。
まとめ
超高齢化社会にある日本では、管理栄養士の需要は着実に増えています。
管理栄養士の飽和状態やAIに代替されるというウワサもありますが、現段階で仕事がなくなることはありません。
紹介してきたように応用性が高く、介護・スポーツ・ヘルスケア・美容といったさまざまなシーンで活躍が期待できるからです。
そのためには管理栄養士という職業に将来性があっても、日々変化する業界のなかで、常に更新し続けようとする姿勢がなければどんな仕事でもうまくいきません。
変化する時代のニーズに合わせて、知識やスキルを鍛え高めていく必要があります。
そして人とAIがお互いに得意なことを分業していけば、AIを味方にし、さらなる可能性が広がっていきます。
管理栄養士は資格を取ったら終わりではありません。
自分が管理栄養士として、将来どんな役割を果たしたいのか、しっかりと考えておくことが大切ですね。