
介護職員として経管栄養の資格は今後、ますます必要とされていきます。
近年の医療技術の進歩により、患者ケアに携わる全ての人に、より高度な専門性が求められるようになってきました。
介護現場において、経管栄養を必要とする高齢者は増加傾向にあり、経管栄養を実施できるスキルを持つ介護職員のニーズも高まっているのです。
さらに今後は同じ介護職員の中でも、資格を持っているか持っていないかで給与面や評価にも大きな差が生じてくる可能性もあります。
でも、経管栄養に必要な資格の取得方法は少し複雑で分かりにくい、と踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、できるだけ分かりやすく経管栄養の資格取得から登録までの流れを紹介していきますので、職場で生かせる経管栄養資格の取得方法を確認して、周りと差のつく介護職員を目指していきましょう。
目次
介護職員が経管栄養を行うために必要な資格とは
介護職員が経管栄養の資格を取得するためには3つの条件を満たすことが必要です。
たんの吸引や経管栄養は「医療行為」とされており、条件を満たしていない場合は違法行為となってしまう恐れがあります。
ここではどんな条件が必要なのか、分かりやすく解説していきます。
喀痰吸引等研修を受講する
介護職員が経管栄養を実施するためには「喀痰吸引等研修」を受講する必要があります。
社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により、平成24年4月から喀痰吸引等研修を修了した介護職員は「痰の吸引」や「経管栄養」を行うことができるようになりました。
喀痰吸引等研修は各都道府県庁や登録研修機関、介護福祉士のスクールなどで受講することができ、介護施設や事業所で働く介護職員や介護職員初任者研修を修了した人であれば学歴や経験を問わず受講することが可能です。
研修先や申し込み先は地域によって異なるので、受講を検討する際には都道府県のホームページなどで確認することがおすすめです。
認定証の交付を受ける
喀痰吸引研修を修了しただけでは、経管栄養を実施することはできません。
喀痰吸引等研修を受講した後は、「認定特定行為業務従事者」の認定を受ける必要があります。
この認定は有資格者の住民票がある都道府県へ申請することで交付を受けることができます。
申請に必要な書類は都道府県ごとに異なるので、お住まいの都道府県の担当窓口に問い合わせて確認が必要です。
届出が受理されると「認定特定行為業務従事者資格証」が送付されます。
資格証を事業所へ提出し、登録することではじめて業務として経管栄養を行うことができるようになります。
喀痰吸引等研修が修了したら必ず申請して認定証を受け取りましょう。
経管栄養が行える職場で働く
介護職員が喀痰吸引、経管栄養といった医療行為を行うためにはもう一つ条件があります。
所属している事務所が「登録特定行為事業者」であることが必要になります。
登録がない事業所では資格があっても経管栄養を行うことができないので注意が必要です。
対象となる事業所は、以下の通りです。
- 介護関係施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設など)
- 障害者支援施設等(生活介護、グループホームなど)
- 在宅系(訪問介護、重度訪問介護など)
- 特別支援学校
※医療機関は対象外
資格を取る前に、現在所属している事業所または就職希望の事業所が「登録特定行為事業者」
であるか確認をしておきましょう。
喀痰吸引等研修の流れ
喀痰吸引等研修は基本研修と実地研修の2つに分かれています。
さらに基本研修では医療行為を行う対象者によって受講しなければいけない研修が異なります。
2つの研修内容と講義時間について紹介していきます。
※自治体ごとに年間の実施時期や実施回数も異なるので事前に確認が必要です。
基本研修
喀痰吸引等研修の基本研修には、大きく講義と演習の2つがあります。
講義と演習は項目により実施時間や回数が決まっているので、受講可能か事前の確認をおすすめします。
また、喀痰吸引等研修は医療行為を行う対象者によって第1号、第2号、第3号研修と研修内容が異なるため、自分が実施したい内容に合わせて研修を選択する必要があります。
第1号研修と第2号研修は、介護施設などで多くの利用者に実施することができるようになる研修です。
第1号研修では気切カニューレからの喀痰吸引や経鼻からの経管栄養の実施ができますが、2号研修では実施することができません。
以下にそれぞれの詳しい内容を記載していきます。
【内容】
・第1号研修
喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気切カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)を実施することができるようになります。
・第2号研修
喀痰吸引(口腔内・鼻腔内)と経管栄養(胃ろう・腸ろう)の実施をすることができるようになります。
・第3号研修
重度の障害を持つ利用者などへ喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気切カニューレ内部)経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)を実施することができるようになります。
重度の障害とは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)またはこれに類似する神経・筋疾患(筋ジストロフィー、高位頸髄損傷、遷延性意識障害、重傷心身障害)を患っている療養者や障がい者です。
【実施時間と回数】
第1号、2号研修に必要な基本研修は講義時間50時間と演習で合計15日程度が必要になります。
3号研修に必要な基本研修は講義と演習を合わせて9時間必要になり、2日程度で受講することができます。
このように第1・2・3号研修にはできる医療行為や医療行為を行うことのできる利用者さんが異なるので、なるべく仕事の幅を広げたいという方は第1号研修の検討をおすすめします。
実地研修
経管栄養の資格を取得するには、5項目の実地研修を受ける必要があります。
実地研修で必要な5項目と必要回数は次の通りです。
- 口腔内の喀痰吸引:10回以上
- 鼻腔内の喀痰吸引:20回以上
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引:20回以上
- 胃ろう又は腸ろうの経管栄養:20回以上
- 経鼻の経管栄養:20回以上
※2号研修では、気管カニューレ内部の喀痰吸引と経鼻の経管栄養の2項目が免除
実地研修には回数の上限がないため、必要回数の研修を受講したのちに医師などによる評価で知識と技能を習得したと認められるまで繰り返し実地研修を行うことになります。
実地研修ができる施設については登録事業者となる事業所、介護施設等で受けることができます。
また、実地研修の体勢が整っている医療機関でも実施可能な場合があります。
実地研修にかかる期間は約10日間ほどです。
喀痰吸引等研修の費用
基本研修の申し込み先(実施団体)によって費用は異なります。
実地研修に関しても、研修先をスクールで手配してもらうのか、自分で探すのか、就業先で受けるのかによって費用が異なるので事前に確認をしておきましょう。
研修費用の参考として全国に展開している福祉教育専門学校の三幸福祉カレッジの喀痰吸引等研修(基本研修+実地研修)の費用を紹介します。
- 第1号研修
215,000円(税込236,500円)
- 第2号研修
168,000円(184,800円)
- 第3号研修の場合
36,800円〜(40,480円〜)
※実地研修を受講者ご自身で手配する場合は、実地研修料は免除される場合があります。
※喀痰吸引等研修につきましては地域により設定時間数・日数・受講料・カリキュラム・免除科目・教育訓練給付金に違いがあります。
参考:喀痰吸引等研修(介護職員のための看護師によるたん吸引講座)-三幸福祉カレッジ
介護福祉士など実務者研修の修了者は、基本研修が免除されます。
実地研修のみの費用は2万円ほどです。
実地研修の費用は介護施設や病院によって、研修内容すべてを含めた費用となっているケースや、1行為ごと、1項目ごとなど項目別に費用が設定されているケースもあります。
保険料や消耗品費などが別途発生することもあるため、比較して選ぶとよいでしょう。
研修後の認定登録手数料は自治体により異なりますが1,000〜1,500円前後で、
そのほかに認定証発送のための郵便代や簡易書留代が必要になります。
喀痰吸引等研修を受講するメリット
喀痰吸引等研修を受けることで様々なメリットを得ることができます。
その中でも特にメリットが大きいと感じたものを3つ挙げました。
それぞれについて詳しく解説していきますので、ぜひ確認してみてください。
現場で信頼される人材になる
経管栄養が実施できると現場で必要とされる人材になることができます。
高齢化に伴い経管栄養を必要とする利用者が増える一方で、介護施設での看護師の配置人数は少なく、経管栄養など医療行為を行える人材が少ないのが現状です。
もしあなたが認定特定行為業務従事者の認定を受けた場合、看護師しかできなかった業務の一部を任うことができるので、職場から喜ばれることでしょう。
また、資格を持っていることで仕事に対する熱意も周囲に伝わりますし、尊敬や信頼といった評価も上がります。
職場によっては専門的技術に対する手当を受けることができるので経管栄養の資格を取ることは大きなメリットにつながると言えます。
スキルアップにつながる
喀痰吸引等研修を受講すると介護職員としてのスキルアップにもつながります。
自分の努力次第で、資格を取得し専門職として活躍できる道が開けるのが介護職です。
喀痰吸引等研修を受講した介護職員は、医師や看護師が行う喀痰吸引や経管栄養といった医療行為の一部を行うスキルを身につけることができ、他の介護職員には実施できない特別な行為を行うことができるようになります。
給与アップを目指したり、職場で活躍していくためには、周りと差をつけるスキルアップはとても重要になっていますので、介護職員として仕事領域を広げたい方は、受講を検討されてみても良いかもしれません。
実践的な技術が身に付く
喀痰吸引等研修では現場で実際に使われる機材が使用され喀痰吸引・経管栄養の手技を習得するまで何度も繰り返し学ぶため、実践的な技術が身につきます。
経管栄養は生きるために必要な栄養と水分を補給する重要な栄養補給法で、経管栄養を必要とする利用者にとってとても重要な医療行為です。
また、経管栄養を必要とする利用者の多くは咳嗽反射が弱く、喀痰や栄養を誤嚥するリスクも高いですよね。
通常、介護職員は喀痰吸引ができる医師や看護師を呼ぶことしかできませんが、資格があれば、現場で誤嚥などのトラブルにもすぐに対応することができるようになります。
周りの介護職員との差をつけることができるだけでなく、利用者や家族からの信頼や満足度を上げることにも繋がり何より介護職員としてのやりがいにも繋がるので実践的な技術を身につけたいという方にも喀痰吸引等研修の受講はおすすめです。
喀痰吸引等研修を申し込むには
喀痰吸引等研修は各都道府県庁や登録研修機関、介護福祉士のスクールなどで受講することができます。
申し込み先は地域によって異なるので、受講を検討する際には都道府県のホームページなどで確認してみましょう。
東京都の場合、以下のリンクから研修機関を確認することができます。
参考:喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について|介護保険|東京都福祉局
まとめ
喀痰吸引と経管栄養は医療行為ですが、一定の条件を満たす介護職員も行うことができます。
必要な研修を受けることで実践的な技術が身につき、介護職員としてのスキルアップも叶います。
また、介護職員の中でも専門性の高さと業務に対する意欲もアピールできるでしょう。
少子化や高齢化に伴い、介護施設での医療ニーズは高まっています。
現場から必要とされる人材になるためにも、喀痰吸引等研修の受講を検討してみてください。
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