糖尿病患者さんへの食事指導は、血糖をコントロールする上でとても重要です。
糖尿病の治療として食事療法、運動療法、薬物療法があります。
効果が最も高いのは薬物療法ですが、日常的にコントロールできるのは食事療法です。
ただ、糖尿病患者さんに唐突に「砂糖を食べないでください」と指導するのは簡単ですが、いざ生活で実践するのはとても難しいでしょう。
具体的に何を食べていいのか、何を食べない方がいいのかなど、予め理解しておかなければならないことはたくさんあります。
また、患者さんの生活習慣から実践が可能かも考えた上で指導しなければなりません。
糖尿病は、日頃からの積み重ねが病状を良くも悪くもしていきます。
今後あなたが食事指導を行っても患者さんに実践してもらえなければ、その患者さんは病状悪化に伴い、さらに食べられないものが増えてしまうかもしれません。
そのため、実践してもらえる食事療法を指導することは糖尿病患者さんにとって重要となります
この記事では、糖尿病診療ガイドラインの内容も含めつつ、実際に指導経験のある私が糖尿病の病態から食事指導方法、指導会話例まで紹介していきます。
記事を読み終えた時、糖尿病の病態を理解した上で個人に合った食事指導を行いやすくなると思います。
是非最後までご覧ください。
目次
糖尿病患者さんの食事指導について
「糖尿病患者さんの食事指導」と言っても個人の食生活や生活習慣によって、指導内容も大きく変わります。
例えば、糖尿病の原因が脂っこい食品の摂りすぎの方とお菓子やジュースなど甘い食品の摂りすぎの方で改善アプローチは違います。
そもそも糖尿病がどのような病態なのか理解していないと、食事指導を行うのはとても難しいです。
そのため現場で働いている私自身が、糖尿病患者さんの食事指導をする前に知っておきたい3つのことをお伝えします。
そもそも糖尿病とは
糖尿病は、血糖を細胞に取り込む働きをするインスリンが十分に働かないために、血糖が増えてしまう病気です。
初期には自覚症状がほとんどなく経過する人が多いです。
高血糖が現れると喉が渇く、尿の回数が増える、疲れやすくなるなどの症状がみられます。
糖尿病は発症の原因によって「1型糖尿病」、「2型糖尿病」、「その他糖尿病」や「妊娠糖尿病」に分けられます。
「1型糖尿病」は幼児や青年が発症しやすく、遺伝によるものと言われます。
「2型糖尿病」は過食や肥満などの生活習慣病の乱れによるものです。
「その他糖尿病」は糖尿病以外の病気や、治療薬の影響で血糖値が上昇して起こるものです。
「妊娠糖尿病」は妊娠中に発見または発症した糖尿病ほどではない軽い代謝異常の事を指します。
現代は特に生活習慣による「2型糖尿病」の方が急増しており、2型糖尿病患者に対しての食事指導の機会が多いです。
主な診断基準は以下となります。
空腹時血糖値 | 126mg/dL 以上 |
ブドウ糖負荷試験 2時間血糖値 | 200mg/dL 以上 |
随時血糖値 | 200mg/dL 以上 |
HbA1c | 6.5%以上 |
別の日に行った検査で糖尿病型が2回以上認められれば、糖尿病と診断されます。
糖尿病患者さんに食事指導をする理由
冒頭でお伝えした通り、糖尿病患者さんに食事指導をすることはとても重要です。
最近急増している2型糖尿病の方は、実際に食事療法、運動療法、薬物療法で主に血糖をコントロールします。
もし、食習慣が不摂生であれば、普段から高血糖状態で生活することになります。
高血糖状態が続くことで、前述した高血糖症状の他に神経障害、動脈硬化、網膜症などの危険な合併症を発症する可能性が極めて高くなります。
上記の合併症がひどくなれば、手足の感覚障害、手足の切断、失明にまで及ぶため合併症の進行を防ぐのは重要となります。
そのため、食習慣の見直しを図り、高血糖症状を普段から抑えるためにも食事指導が不可欠となります。
糖尿病患者さんの食事指導の進め方・注意点
食事指導は、あくまで「患者さん」が主体となって進んでいきます。
まずは、しっかりと患者の生活習慣、食習慣や悩みなどの話を聞くことが重要です。
それを踏まえた上で、食事の改善するべきところや生活習慣に合わせた提案などを行います。
もし、あなたが患者さんの話も聞かず、一方的に指導したい内容を説明し続けたとします。
それによって、説明した食事内容が患者さんの生活習慣に合っていなくて、実践に繋げにくい指導内容になるかもしれません。
また、患者さんは自分の話を聞いてくれないなどの不満も生じて、信頼関係を築けず実践に移してもらえない可能性もあります。
そのため、まずは患者さんの声に耳を傾け、その患者さん個人に合った食事指導を行っていくことがとても重要となります。
糖尿病患者さんの栄養バランスを整えた献立作りのコツ
糖尿病の血糖コントロールには普段の食事内容がとても重要です。
普段から血糖コントロールを目的に運動療法を習慣にしていても、食事が不摂生であれば改善は見込めません。
通常の三大栄養素と言われているタンパク質、脂質、炭水化物の理想のバランス(PFCバランス)は、
- 脂質20〜30%
- タンパク質13〜20%
- 炭水化物50〜65%
と言われています。
出典:厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 エネルギー産生栄養素バランス
ただ、糖尿病患者さんは重症度などによって、適切なPFCバランスの割合に変動はあります。
医師や管理栄養士の指示した割合で、適切なカロリー量と栄養バランスを整えていく事が重要となります。
ここでは、現場で糖尿病患者さんに献立の提案をしてきて、多かったケースを4つ紹介していきます。
主食・主菜・副菜を組み込んだ定食にする
普段の食事から主食・主菜・副菜を用いてバランス良く献立を組みましょう。
糖尿病患者さんは医師や管理栄養士と相談して、1日の適切なエネルギー摂取量を決め、その中で必要な栄養素を摂る必要があります。
もし、食パンや蕎麦など単品のみで食事を済ませてしまう方であれば偏った栄養状態となってしまう他に、血糖値も上がりやすくなってしまうため身体の不調を訴える可能性が高くなります。
逆に、献立を立てる時から主食・主菜・副菜を積極的に組み込んでいけば、血糖値の改善や栄養バランスが整いやすくなります。
常日頃から主食・主菜・副菜を意識した食事での指導を意識しましょう。
脂質が多い食品は避ける
糖尿病の原因は、炭水化物の摂りすぎをイメージする方が多いと思います。
しかしながら、現代は食事の欧米化が進んだことや加工食品が増えたことで、脂質の摂りすぎが原因で糖尿病になってしまう方が増えています。
脂質の摂りすぎは、糖質からエネルギーを作りづらくして、エネルギーに変えられない分の糖質を血管内に残してしまい血糖値が上昇しやすくなってしまいます。
例えば、ソーセージは40g(2本)で100kcalとなり、脂質は約10g。
鶏胸肉は80gで100kcalとなり、脂質は約5g。
同じ肉類でも少ない量でソーセージは鶏胸肉の倍の脂質量となり、献立に多く組み込む事で脂質過剰になりやすく肥満の原因になります。
そのため、糖尿病を発症したら、糖質量だけでなくしっかりと脂質の量も考慮しなければなりません。
高脂質の食材を低脂質の食材に置き換えるなど、脂質の割合を調整していきましょう。
食物繊維豊富な食品を組み込む
適切な量の食物繊維を摂ることで血糖値の上昇を緩やかにしたり、腸内環境を整える効果があるとガイドラインでも推奨されています。
実は食物繊維の1日の推奨量は20g/日以上とされておりますが、現代人の食物繊維の平均摂取量は12~15g/日と推奨量に足りていません。
食物繊維は野菜、海藻、きのこ、穀類、豆類、果物などに多く含まれていますので、小鉢などを追加して積極的に献立に組み込むといいでしょう。
ただ、元々腸内環境が悪化している人もいるので、食物繊維を増やしたことでお腹がゴロゴロしたり腹部膨満感などの不調を起こしてしまうこともあります。
もし不調がある場合はどの食材が体調変化を起こしやすいかなど、しっかり患者と確認して食物繊維量や食材を調整したり、食物繊維以外のアプローチを検討していく必要があります。
乳製品、果物を献立に追加する
前述した主食・主菜・副菜に乳製品や果物を献立に追加することも推奨します。
乳製品にはカルシウム、果物にはビタミン・ミネラルが豊富で他の献立のみでは不足しやすい栄養素を補うことができます。
また、果物は糖質をエネルギーにしやすくなる効果もあり、糖質をエネルギーにしにくい糖尿病患者にも有効と考えられます。
ただ患者さんによっては乳製品や果物が有効でない場合もあるので、しっかり主治医の方針に従いましょう。
以上のことから乳製品、果物を献立に加えることは有効です。
すぐにできる血糖値上昇を抑えるコツ
食事指導は、実践に移しやすい提案をすることも重要です。
糖尿病は「生活習慣病」とも言われるだけあり食事指導を行っても実践してもらえるとは限らず、ましてや指導内容を習慣化するのは患者にとって大変なことです。
患者さんによって意欲が低く前述した献立を継続してもらえないこともあります。
しかしながら、献立の変更は大きくできなくても食べ方など注意することで、血糖値上昇を少しでも抑えることが可能です。
そのため、すぐに行いやすい提案も患者によっては必要になりますので、ここでは実践しやすい4つのコツをお伝えします。
食べる順番を工夫する
食事は野菜やタンパク質を多く含んだ食品を最初に摂ることをおすすめします。
具体的には、主食、主菜、副菜が献立の中にあれば主菜・副菜から食べ始め、それから炭水化物が多く含まれる主食を食べるようにします。
炭水化物は血糖値をあげやすい食品が多いですが、食事の順番を変えるだけで、急激に血糖値が上昇する可能性が抑えられます。
食物繊維、豊富に含まれるエネルギーや栄養素は炭水化物から十分に摂取できるので、血糖値乱高下を怖がって控えることはやめましょう。
後述する早食い、大食いと同様に普段の食事から改善できるので、指導の中に組み込むことを推奨します。
早食い、大食いに気を付ける
早食い、大食いも血糖値を上げてしまう原因になるため、改善できるように指導していきます。
特に早食いは食べ物を急激に身体の中に入れてしまうため、急激に血糖値を上昇させやすいとされています。
また、早食い、大食い共に肥満の原因にもなります。
肥満で内臓脂肪が蓄積されることで、インスリンが効きにくい身体となり、血糖が細胞内に移動せず血糖が上昇してしまいます。
ガイドラインでも肥満を防ぐために体重コントロールも推奨されています。
そのため、普段の食事ではよく噛むこと、適切なエネルギー摂取量に抑えることなど対策することが重要になります。
どうしても早食い、大食いをしてしまう方は、血糖値をあげにくい低GI食品と言われるような野菜、きのこ、海藻など低カロリーの食品を献立に組み込むといいでしょう。
普段の意識で変えられるため早食い、大食いになっている方には改善策として提案します。
血糖値が上がりやすい食べ物を控える
食材には血糖値が上がりやすい食べ物があり、それらを控えて血糖値が上がりにくい食べ物に変更することを推奨します。
血糖値が上がりにくい食べ物に献立を調整することは、ガイドライン上でも血糖のコントロールに有効とされています。
例えば、消化のしやすい白米、うどん、パン、じゃがいもなどが血糖値が上がりやすいとされています。
逆に、消化のしにくい玄米、蕎麦、全粒粉パン、キノコ類、ヨーグルトなどは血糖値が上がりにくい食べ物とされています。
ただ、消化機能が低下している方にとって、消化しやすい白米などは優秀なエネルギー源です。
変更できない場合は、前述した食べる順番や食べ合わせなど工夫していくことも必要となります。
はじめに患者と相談して、負担にならない範囲で血糖値が上がりにくい食べ物に調整していきましょう。
規則正しい時間で食事をする
食事は適度な時間を空けつつ、1日3食を摂るようにします。
なぜなら、食事の間を空けすぎてしまうと空腹時間が長くなり、体内のエネルギー、つまり血液中の糖が枯渇してしまいます。
すると次の食事で一気にエネルギーを吸収してしまうため、血糖値が上がりやすくなってしまいます。
しかしながら、これは均等な食事間隔で間食をできる限り控えることで改善できます。
食事間隔の目安としては4~6時間程で、それ以上に間隔が空く場合はエネルギー枯渇を防ぐために間食を適度に入れて調整しましょう。
1日のスケジュールは、個人差が大きいため、その人に合った提案をすることが重要になります。
糖尿病患者との指導会話例
前述した食事指導を行うにあたって知識を覚えていても、実際に患者とどのように指導を進めて良いのかわからない場合もあるかもしれません。
ここでは、実際に糖尿病患者と関わってきた私が、指導会話例を紹介します。
食事でご飯やパンを控えるのが不安な方
患者A「ご飯やパンを食べることが多くて、制限されるととても困るんですが・・・。」
指導「炭水化物を制限するというよりは、適量にすることが目的ですので、ご飯やパンを食べさせないということではありません。ただ、これから糖尿病が悪化していくのであれば、炭水化物を制限しないといけなくなるかもしれません。」
患者A「そうなんですね。今はどれぐらい食べていいですか?」
指導「医師や管理栄養士の指示によると今くらいの量でも大丈夫です。ただ患者Aさんの場合、おかずが少なかったり、食パン1枚で済ませているときがあるので、おかずを加えた献立にすると血糖値も抑えやすくなるので良いと思います。主食、主菜、副菜、乳製品、果物を合わせることをおすすめしていますが、いきなりは負担になるかもしれないので、加えられそうなものから始めて大丈夫です。」
患者A「ヨーグルトとかはスーパーとかで買えば、準備も楽なのでできそうです。」
指導「継続できそうであれば、ぜひやってみてください。食パンを主食にするときは特に他のおかずが少ないので、よりおかずを意識できるといいと思います。」
患者A「目玉焼きとか、生野菜とかでもいいですか?」
指導「はい、とてもいいと思います。」
患者「わかりました、まずやってみようと思います。」
食べるのが楽しみで食事制限される事が不満な方
指導「患者Bさんの適切なエネルギー量を計算したのですが、少し食べる量を抑えられるといいかなと考えてますが、どうでしょうか。」
患者B「食べるのが楽しみなんだけど、結構食べる量を減らしたほうがいいの?」
指導「食べる量を調整するか、脂質が高いものも多いので脂っこいものを減らしたりできるとエネルギー量を調整できます。」
患者B「脂っこいもの、そんなに摂ってるかな?生野菜も食べてるんだけど。」
指導「揚げ物が多かったので、加熱や蒸し料理に変えたり、生野菜につけるドレッシングをノンオイルドレッシングに変えたりするだけでもだいぶ変わると思います。」
患者B「あーそれなら少しできそうかな。」
指導「もし食べる量を減らして空腹感が強ければ、野菜、きのこ、海藻など低カロリーのもので量を増やせると良いと思います。」
患者B「なるほど、続けられるかわからないけど、とりあえずやってみようかな。」
指導「いきなり全部やるのは難しいこともあるので、徐々に取り入れられると良いと思います。少しでも継続できるのが1番大事なので、まずは無理のない範囲で変更していきましょう。」
ゼロから栄養学や食事指導を学べるおすすめの協会
現場にいると医療職でも栄養の知識不足や、指導が上手くできずに十分な食事指導を行えていない方もたくさんいます。
実際に私もその一人でした。
しかしながら、現在は自信を持ってたくさんの患者さんに食事指導を行っています。
私が自信を持って指導できているのは「臨床栄養医学協会」で、本気で栄養学について学んできたからです。
協会では科学的根拠に基づいた栄養学の知識を学ぶだけではなく、食事指導のスキルを身につけることができます。
全てのカリキュラムを終了した時、あなたも自信を持って食事指導をすることができるようになるでしょう。
興味がある方は下記HPをご覧になってください。
URL:臨床栄養医学協会
まとめ
前述した内容から理解してもらえるように「糖尿病患者さんの食事指導」と言っても、患者さんの食生活や生活習慣によって指導内容は大きく変わります。
また、知識が豊富な事はもちろんのこと、患者さんの性格なども配慮して伝え方にも工夫が必要です。
私たちは、糖尿病という「疾患」に対して指導するのではなく、患者さんという「人」に対して指導していくのです。
決して「人」に対して機械的な伝え方になると、あなたの言葉は響きません。
あなたが全力で「人」に向き合うことで、より良い食事指導ができるようになることでしょう。
当記事は「糖尿病患者さんの食事指導」を中心にお伝えしましたが、実際に食事指導に悩まれている方の一助になれば幸いです。
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