看護師として患者さんに食事指導をする場面で、実際にどんなことを伝えればいいのか迷うことはありませんか?
また、食事という生活の楽しみを制限されている患者さんに、どういう声かけをすればいいのか悩みますよね。
もし、自分が患者さんの立場になったとき、「あれも駄目、これも駄目」「出された食事だけ食べてください」と言われたらどうでしょう。
ただでさえ、入院してストレスの多い環境に置かれているのに、食べることまで制限されると、治療そのものが嫌になってしまいますよね。
そんな食事指導を続けていたら、患者さんはいつまでたっても受け入れてくれません。
入院生活を送る患者さんにとって、看護師はとても身近な存在です。
そのため「自分のことをなんでもわかってくれている」という、精神的な拠り所となる場合もあります。
自分のことに親身になってくれる人からの説明なら、少しは聞いてみようという気持ちになりますよね。
ここでは、食事指導における看護師の役割や患者さんへの関わり方について紹介していきます。
これをマスターすれば、看護師さんが食事指導をするときに、どうすれば上手くいくか悩むことがなくなるかと思います。
ぜひ参考にしてみてください。
※ここでの食事指導とは、管理栄養士が行う診療報酬を算定できる指導ではなく、あくまで看護場面における指導のこと。
目次
食事指導における看護師の役割とは
食事指導における看護師の役割とは「患者さん・家族の理解」を深めることです。
人が何か行動を起こすときは、一度、自分の中で受け入れるという作業が必要になります。
そのため、患者さんや家族が病気や食事に対する理解を深めるということは、とても重要なステップといえます。
入院中の患者さんは、何かしらの食事制限をされていることがほとんどです。
病気との付き合いが長い患者さんは、自分の食事を熟知されている方もいますが、突然病気と診断された場合、食事制限を受け入れられない方もいますよね。
食事が美味しく食べられないということは、生きる楽しみが失われ、QOLの低下にも繋がります。
看護師は、そのような患者さんの気持ちに寄り添いながら、食事指導をしていく必要があります。
とはいえ、患者さんが自分の病気について正しく理解できていなければ、食事指導はうまくいきません。
理由もわからずに我慢してと言われても、納得できる人はいませんよね。
まずは、患者さん自身に、病気の状態や経過、食事制限をしない場合のリスクなどをしっかり理解してもらいましょう。
患者さんの年齢や理解度によりますが、医師の説明だけでは、実はよくわかっていない場合もあります。
病状説明の時は、適宜、看護師から補足の説明をしたり、わからないことがなかったか患者さんに確認することで、患者さんの理解を深めることができます。
また、食事指導では、退院後の食事管理についても考える必要があります。
家族構成や役割にもよりますが、多くの場合、家族の協力が必要不可欠となります。
患者さんだけではなく、家族(食事を作る役割の人)が食事制限の必要性を知っておくことも重要です。
看護師は、患者さんや家族が病気や食事について理解を深め、少しでもストレスなく食事管理ができるように関わっていきましょう。
看護師と栄養士の役割の違い
食事指導は栄養士の役割だと思っている方も多いのではないでしょうか。
実際、制限食を食べているすべての患者さんに栄養士が介入する訳ではありません。
看護師と同様、栄養士の仕事内容は多岐にわたるのでしっかりと役割分担がされているのです。
栄養士が食事指導を行うのは、主に自宅で食事管理が必要となる患者さんであり、その他の患者さんについては看護師が対応することがほとんどでしょう。
まずは、看護師と栄養士の役割の違いを知ることが大切になります。
以下に、それぞれの役割についてまとめました。
看護師 | 栄養士 |
・情報収集から患者さんの全体像を把握 ・医師やコメディカルスタッフと情報共有 ・問題点を医師やコメディカルスタッフに相談 ・看護計画の立案、実施 ・患者さんが疑問やストレスを抱えていないか観察 →コミュニケーションの中で指導 ・退院後の生活についてアセスメント | ・医師の指示をもとに栄養計画を立案 ・献立の作成 ・食材管理や調理指導 ・患者さんに合わせて食事形態や種類を提案 ・退院後の食事管理方法を指導 ・外来患者さんの食事指導 |
看護師は、多職種との連携が特に多い職業です。
例えば、嚥下機能が低下している患者さんでは、栄養士に相談し、誤嚥しない食事形態を提案してもらいます。
また、食事中の姿勢によっても誤嚥のリスクがあるので、リハビリスタッフにポジショニングを確認してもらいます。
このように、患者さんの病態や治療内容、ADLに合わせて、医師やコメディカルスタッフ(栄養士、薬剤師、リハビリスタッフなど)と連携し、常に治療がスムーズに進むよう取り計らう必要があります。
これは、患者さんを最も近くで観察している看護師だからこそできることなんです。
看護師と栄養士は、それぞれの専門知識や技術を活かし、こまめに連携を図りながら、患者さんの治療・回復をサポートしているんですね。
一方通行に注意!食事指導4つのポイント
食事指導をするときに、こちらが言いたいことだけを伝えても、患者さんはすんなり受け入れてはくれません。
患者さんの理解度に合わせてわかりやすく、寄り添いながら説明していく必要があります。
ここでは、食事指導をスムーズに行うための、4つのポイントを解説していきます。
患者さんの入院前の生活習慣・嗜好について把握しておこう
食事だけに限らず、患者さんに指導を行う場合は、その人の生活習慣や嗜好を知っておくことが重要です。
なぜなら、生活習慣や嗜好を知ることで、患者さんの大体の性格を把握することができ、声掛けの選び方の参考にすることができるからです。
例えば、入院前は内服薬を自己管理していた患者さんで考えてみましょう。
70代でまだ認知機能もしっかりしているにも関わらず、薬を包装シートからすべて出して、クリアケースに移し替え、朝・昼・晩と服薬のタイミング毎にセッティングしている人は、どんな性格だと予想できますか?
几帳面で真面目そうな人だと思いますよね。
それなら、この患者さんにはしっかりと根拠まで説明したほうが、納得してもらいやすいかもしれません。
このように、生活習慣や好みを把握することで、指導するときの関わり方のヒントを得られます。
入院時の情報は必要最低限の内容だったりするので、普段から患者さんとの会話の中でも情報収集できるよう、アンテナを張っておくといいですね。
制限食に対して不満が出たときはひとまず傾聴!
患者さんが食事に対して不満を言ってきたときは、まずは患者さんの気持ちを聞くことに徹しましょう。
不満を聞いてもらうことで「この人は自分の気持に寄り添ってくれている」という安心感や満足感が生まれます。
逆に、自分の気持を聞いてもらえない相手では、話を聞こうという気すら起きませんよね。
例えば、塩分制限をされている患者さんが、「ごはんに梅干しをつけてほしい。今まで毎日欠かさず梅干しを食べてきたんです」と言ってきたとします。
ここで、「〇〇さん、梅干しは駄目ですよ!」と否定から入ってしまうと、患者さんは心を閉ざしてしまい、こちらの話を聞く気にはなれません。
まずは、梅干しを食べたい理由を聞きましょう。
もともと、ご飯には漬物や梅干しをつける習慣があって、病院の白ご飯だけでは味気ないのかもしれません。
あるいは、患者さんなりに、梅干しが身体にいいと思って毎日食べていたのかもしれませんよね。
そのような患者さんの思いに、まずは寄り添って肯定してあげましょう。
話をじっくり聞くことで不満を出し切ってもらい、相手の気持ちが落ち着くまでタイミングを待ちます。
そうすることで、患者さんもこちらの話に耳を傾ける体勢になり、指導もスムーズに進みますよ。
患者さんが自分の病気・治療を理解しているか聞いてみよう
最初にお伝えした通り、食事指導では、患者さんや家族が病気について理解しているか、ということが重要になります。
物事に対して不満がでる場合というのは、自分がそれをすることに納得していない場合がほとんどです。
たとえば、塩分制限食を食べている患者さんで、「味が薄い!もっと味を濃くしてほしい。病院のご飯は美味しくないんだよね!」と不満を言う人がいるとします。
病識がある患者さんであれば、「自分は病気だから塩分制限されているんだな」と理解して、ある程度は我慢しようと思いますよね。
しかし、この人は味が薄いことだけにフォーカスして、塩分制限をしている背景を無視しています。
こういった場合は、病気と塩分の関係、塩分を控えることが治療となること、塩分を摂りすぎるとどんな危険があるのかなどを、わかりやすく伝える必要があります。
ここで重要なのが、相手の理解力や認知機能に合わせて伝えるということです。
入院前に自立して生活していた患者さんであれば、退院後も自己管理が必要になりますし、詳しく説明することも必要かもしれません。
しかし、高齢で認知機能も低下している患者さんに、あれもこれもと説明しても、理解するどころか混乱させてしまいます。
簡単な説明を繰り返すことで、少しずつ納得されることもあるので、根気よく関わることも必要ですね。
また、稀に看護師からの説明では納得できないと言われる患者さんもいるので、そういう場合は医師に説明してもらうよう協力を得ましょう。
食事内容に絶対はない!医師や栄養士に相談しよう
食事制限の必要性を説明した上で、それでも患者さんが不満を訴えられる場合は、自分で解決しようとせずに、医師や栄養士に相談してみるのもいいでしょう。
患者さんの病態や治療経過によっては、制限食を見直せる場合があるかもしれませんし、形態や味を工夫することで、患者さんの好みに近づけることができるかもしれません。
新人看護師や看護学生では、医師の指示を守らなくては!という思い込みが邪魔をしがちですが、患者さんが納得して治療を受けられることが何より大切です。
病気だけに目を向けるのではなく、患者さんの生活背景を考えて、できるだけストレスが少なくなるよう援助することが、看護師の役割といえます。
事例で解説!〜糖尿病で入院中の患者さん〜
これまで、食事指導における看護師の役割や、指導方法のポイントを説明してきました。
では、実際の食事指導の場面では、どのように関わればいいのか、糖尿病患者さんの事例をもとに解説していきます。
患者プロフィールと経過:
Aさん 63歳 男性 妻と二人暮らし
1年前に糖尿病と診断され、3ヶ月に1回の通院で栄養士による食事指導も受けていた。
今回、外来を受診した際に、血液検査で血糖値が高く、医師・妻と相談して教育入院することになった。
事例:
入院7日目。担当看護師は、情報収集から最近のAさんの食事摂取量が少ないことが気になりました。
検温でAさんのもとへ訪れると、「なんで私のパンにはジャムが付いていないんですか!」「毎日おかずの味が薄くてうんざりです」と訴えられました。
以下、Aさんと担当看護師の会話です。
Aさん:
入院してからずっと我慢していたんですけど、病院の食事が美味しくなくて…
家では、唐揚げとかハンバーグとか、ごはんのおかずになるものが多かったけど
病院のおかずは薄いから、ごはんは別で食べるんだけど、やっぱり味気ないよね。
最近は食べることもストレスになってきちゃって…
担当看:
食べることがストレスになっていたんですね。
お話いただいてありがとうございます。
確かに、お家の食事に比べると、病院のおかずは薄味だと感じるかもしれませんね。
Aさん:
入院中だから我慢しないといけないのはわかってるんだけど…
先が見えなくてしんどくなってきました。
【解説①】
ここでのポイントは、患者さんの話を遮らずに聞くことです。
途中で質問すると、患者さん自身も、自分が何を伝えたかったのかわからなくなるので、相槌を打ちながら聞き出すことに徹しましょう。
そして、相手に共感することで「私はあなたの味方ですよ」という姿勢をアピールします。
そうすることで、Aさんも冷静に自分を振り返り、素直な感情を伝えることができていますよね。
看護師:
治療を頑張ろうと思ってくださっていたんですね。
もちろん、協力してもらうことは必要なんですが、我慢する必要はないんですよ。
病院で我慢を続けても、退院後の生活が元に戻ってしまうと、Aさんの頑張りがもったいないですよね。
まずは、Aさんができそうなところを、一緒に考えていきませんか?
Aさん:
そう言ってもらえると、なんだか安心します。
自分の食生活のせいなのもわかってるけど、いきなり変えられると、ストレスがすごくて。
【解説②】
「我慢できない自分が悪いんだ」と思っているAさんに対して、看護師は努力を認める声掛けをしています。
このワンクッションは、患者さんのやる気を引き出すことに繋がるので、とても大事です。
また、患者さんには「入院生活=我慢」と思ってしまっている人が多いのですが、決してそうではないことを理解してもらいましょう。
そのために、「解決策を一緒に考えましょう」という寄り添いの言葉かけは効果的です。
Aさんも、看護師との会話で徐々に安心感を得ていますよね。
こうして、患者さんに少しずつ前向きな姿勢になってもらえるよう促していきます。
看護師:
ちなみに、Aさんはどんな食事が糖尿病に良くないと思いますか?
Aさん:
え、そりゃごはんとか麺類とかの炭水化物じゃない?
だって、糖質の摂り過ぎが原因でしょ?
看護師:
糖尿病というくらいですから、普通はそう思いますよね。
実は、脂質の多い食事を習慣的に摂ることが原因なんですよ。
なので、糖尿病の治療というのは、バランスのいい食事を食べることなんです。
Aさん:
そうなの?
全然知らなかったなあ。
看護師:
ほとんどの方がAさんと同じように思われているんですよ。
入院して一週間経ちますし、治療経過も含めて主治医から話を聞いてみますか?
Aさん:
お願いします!
入院が突然だったので、実は先生の話もよくわかってなかったんです。
【解説③】
この場面では、Aさんが食事制限の必要性を理解できているかを確認しています。
相手の自尊心を傷つけないよう、言葉選びに注意しながら、正しい知識を伝えましょう。
病気や治療に対しての理解度によりますが、医師から説明してもらう方が有効である場合もあります。
また、入院時は動揺していて、医師の話を覚えていない患者さんも多いので、必要なタイミングで病状説明を受けられるよう取り計らいましょう。
看護師:
そうだったんですね、主治医に伝えておきますね。
お食事ですが、ごはんになにか付けられないか、栄養士と主治医に確認してみましょうか。
パンのジャムは血糖値が上がりやすいので、今のAさんには良くないものなんですよね。
でも、代わりになるものがないか考えてみますね。
Aさん:
いやあ、話してみてスッキリしました。
なにより、少しでも食事が美味しく食べられるようになるのがうれしいです。
看護師:
そう言っていただけると、私もうれしいです。
これからも、思うことがあれば気軽に話してくださいね。
【解説④】
ここでは、Aさんの不満を少しでも解消できるように、具体的な方法を提案しています。
ポイントは、ジャムが駄目な理由もしっかり伝えつつ、代替案を探そうとしていることです。
患者さんの思いを尊重しながらも、伝えるべきところははっきり伝えることが大切ですね。
いかがでしたか?
看護師との会話の中で、Aさんの気持ちも徐々に変化していったのがわかります。
話を聞いてもらった満足感や、問題を解決しようとしてくれている看護師の姿勢が、Aさんの感情を動かしたんですね。
このように、ポイントを意識することで、一方通行になりがちな食事指導を、患者さん主体の食事指導に変えていくことができるので、ぜひ取り入れてみてくださいね。
おすすめ参考書
最後に食事指導をするにあたり、おすすめの参考書を3つ紹介していきます!
これらには相手に行動してもらうために必要な話し方や疾患別のポイントなどがまとめられています。
読んでみることで食事指導のイメージがつき、実践しやすくなるでしょう!
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まとめ
食事指導には、様々な職種が関わっていることをお伝えしました。
その中でも、看護師は患者さんにとって1番身近な存在であるといえますよね。
看護師の役割をしっかり理解したうえで関わることが、食事指導を成功させる鍵となります。
寄り添う姿勢を大切に、患者さんと信頼関係を築いていけるといいですね。