患者さんの栄養指導をする際に
「どんな風に進めたらいいんだろう?」
「授業では習ったけど、本当にそのままに進めればいいのだろうか?」
など栄養指導の流れについて不安を感じていませんか?
栄養指導では患者さん一人一人に対応していくため、学校で習っていた栄養指導の流れをそのまま実践していても上手くいかない可能性が高いです。
誰かに確認したいと思っても、相談相手が少ない職場も多いですよね?
そこでこの記事では多くの栄養指導を行ってきた私が、自信を持って栄養指導に取り組めるよう基本的な流れを紹介していきます。
この記事を読み終わった頃には、抱えていた不安が安心に変わっていることでしょう!
これが基本!栄養指導の流れ
病院で栄養指導を行うにあたり、医師の指示を確認したり、事前準備をすることはもちろん重要です。
その一方で栄養指導で悩む方の多くは、実際に患者さんと対話して指導を進めていくことに不安や難しさを感じている方がほとんどです。
実際に現場では、初回評価(ヒアリング)→食生活等へのアドバイス→継続評価、アドバイスという流れで栄養指導を進めていきます。
色々と事前準備をしたり、指導の練習をしていたのに患者さんを目の前にすると頭が真っ白になった、上手く話せなかった・・・なんてこともあるかもしれません。
そうならないために、ここからは実際に患者さんを目の前にした所からどのように栄養指導を進めていくのかについて説明していきます。
まずは挨拶から
まずは本当に初歩的なことですが、挨拶をしっかりとしましょう!
当たり前のことだと思っていても実際の場面では上手くできていないことが多いです。
そもそも患者さんの話を聴くためには、患者さんが話やすい環境を作ることが大切です。
人の印象は約3秒で決まると言われており、その印象は身だしなみ、表情、声のトーン、大きさ、話の内容等で判断されます。
その数秒間で「この人は話を聞いてくれそう」「信用できそう」と思ってもらえれば、そこからの会話もスムースに進んでいきやすいです。
そのために、まずは患者さんが入ってくる前に身だしなみを整え、相手にしっかりと声を届ける意識で挨拶をしましょう。
食生活を確認する
挨拶、自己紹介を終え、普段の食生活を確認していきます。
基本的な情報はカルテ、問診票、血液データ等の資料を確認した上で、主に一日の生活の流れや食事内容について具体的に聞いていきます。
・現在の体調や気になる症状
・就寝時間
・食事回数と摂取する時間帯
・アレルギー
・好きな食べ物、嫌いな食べ物
・食事量(分からない場合は写真と比較して判断する)
・食事内容の把握(週に何回くらい食べるかを確認)
①主食(米、小麦、芋類、かぼちゃ等)
②肉、魚、加工食品(ハム、ソーセージ等)
③野菜、海藻類
④乳製品
⑤大豆食品
⑥果物
・間食の回数や内容
・仕事内容(デスクワークか身体を動かす仕事か)
・運動習慣(週に何回くらい運動するか)
・ストレスに感じていることはあるか
このような内容について順番に聞いていきます。
1回の栄養指導は30-40分程度ですので、事前情報と照らし合わせて聞きたいことに優先順位を付けておくことも重要です。
食生活についてアドバイスをする
食生活を聴取した後、課題や改善策について具体的にアドバイスを行います。
ここで重要なことは病院での栄養指導の場合、医師の指示の下に治療や予防のために栄養指導を行っているということです。
そのため、医師の指示を事前に確認して、指示内容に沿ったアドバイスができるよう心がけましょう。
例)糖尿病患者の糖尿病食について食事指導の指示が出る
・一日の摂取カロリーを調整
・炭水化物、タンパク質、脂質のバランスを調整
・食事のバランスを調整(野菜や乳製品、果物等の摂取目安)
・塩分摂取量の目安をアドバイス
・食事時間のアドバイス(就寝2時間前までには食事を終えるなど)
・睡眠時間のアドバイス
質問がないか確認する
栄養指導を進めていくと、どうしても「時間内にアドバイスをしないといけない」と焦り、こちらばかりが一方的に話を進めていってしまうことがあります。
冒頭でもお伝えしましたが、栄養指導において重要なことは患者さんの話を聴くことです。
ですが患者さんも栄養指導に慣れていない可能性もあるため、自分から話をしにくいこともあると思います。
そんな時は、「会話の途中でも遠慮なく質問してくださいね」や、「ここまでで何か分かりにくい点はありますか?」など、区切りの場面で患者さんに質問を促し、話をしてもらう機会を増やしていきましょう。
目標を設定し今後の流れを確認する
最後は、次回受診時までの目標を決め、今後の流れについて説明を行います。
目標を決めることは意欲を引き出したり、維持することに効果的であり、特に高い目標ではなく、小さい目標からコツコツと積み重ねていくことがポイントです。
病院に来ている患者さんは、生活習慣に問題を抱えている可能性があります。
そのような方が自分の生活習慣を変えることにはかなりの精神力が必要です。
そのため、いきなり理想を掲げるのではなく
「1週間で1日、肉料理の日を減らして魚料理の日に置き換える」
「ゆっくりとしっかり嚙んで食べる」
「間食のチョコレートを果物に変える」
など、患者さんが少しの努力で出来そうなことから目標にすることが重要です。
よくある栄養指導で陥りがちな失敗例
ここまで栄養指導の流れについてきましたが、実際に現場では様々な失敗を経験します。
栄養指導を上達させるためには、とにかく経験を積む!なんて意見もありますが、なるべく失敗したくないですよね。
ここでは、みなさんが少しでも失敗が少なくなるよう、栄養指導の現場でよく起こる失敗例を紹介していきます。
知識を伝えるだけの指導になってしまう
患者さんの話を聴くことが大事ということは分かっているものの、いざ患者さんを目の前にすると「何とかアドバイスをしてあげたい、問題を改善させてあげたい」という気持ちになってしまうと思います。
そのような状態では、気が付いたら栄養の知識だけを詰め込んだアドバイスになってしまった・・・なんてこともあるかもしれません。
患者さんに過剰な情報を詰め込むことは、混乱を招き逆効果とされています。
ましてや一方的に話をしてしまうと良好な信頼関係も築けなくなってしまいます。
そのため、まずは相手がどのようなアドバイスを求めているのか、相手の気持ちに寄り添いながらアドバイスをすることが重要となります。
患者さんのやる気を上手く引き出せない
患者さんのやる気を上手く引き出せないというのもよく陥りがちな失敗です。
要因としては、患者さんとのコミュニケーション不足や、患者さんのニーズや目標を理解できていないことが挙げられます。
前にもお伝えしましたが、生活習慣を変えていくことはとてもストレスがかかり、根気が必要なことといえます。
そもそも患者さんは、栄養指導を受けたいから病院に来る方は少なく、治療の一環で医師の指示があったから栄養指導を受けているという方がほとんどです。
「今までの習慣は変えたくはないけど、身体のためだからな・・・」
など、葛藤を抱えている方も多いのではないでしょうか。
そのような状態でいきなり初対面の管理栄養士に「〇〇は病気の予防に悪いのでやめてください。」などの指導を受けても余計に患者さんを追い込んでしまい、やる気を削いでしまう要因となってしまいます。
患者さんのやる気を引き出すためには、
・対話の中でしっかりとコミュニケーションを取り、患者さんの状況やニーズに合わせた指導ができること
・簡単な目標を決めて、段階的に目標達成していくこと
がポイントとなります。
ここまでのことを踏まえて、以下に具体的な会話例を記載しますので、ご参考にしてください。
【糖尿病患者の糖尿病食について食事指導】
悪い例)
管理栄養士:
一日の総摂取カロリーを減らすようにしましょう。特に〇〇さんは脂質の割合が多いので、炒めものや揚げ物は控えてください。血糖値のコントロールも必要なので、お菓子やジュースも避けるようにしてください。
患者:
分かりました。でもつい揚げ物が食べたくなってしまって。自炊の時間もあまりないですし・・・
管理栄養士:
ご自身の身体のためですから、揚げ物は絶対に控えてください。和食中心の食事にして下さい。
患者:
わかりました。
管理栄養士:
最後に、食事だけでなく適度な運動も糖尿病の管理に役立ちます。毎日のウォーキングやストレッチなど、運動習慣を身につけることもお勧めします。
良い例)
管理栄養士:
あなたの日常生活や食事の状況を教えていただけますか?どのような食べ物がお好きですか?
患者:
特に揚げ物と甘いものが好きですね。ついついお腹いっぱい食べてしまいます。
管理栄養士:
そうですか。揚げ物も甘い物も欲しくなるときがありますよね。でも、〇〇さんの食事を拝見していると、やや脂質の割合が多いようです。実は脂質が多いことも血糖値が上がることに影響していることがあるんです。
患者:
そうなんですか。でもどうしても食べたくなる時があって・・・
管理栄養士:
そうですよね。毎日制限することはとても辛いので、週に〇回和食中心の食事にすることはできますか?お肉を魚に変えられたらより良いですね。
患者:
そうですか。毎日じゃなかったらできそうかな。
管理栄養士:
少しずつでもいいのでやってみましょう。そして、糖尿病には運動も取り入れることも良いですね。ウォーキングやストレッチなど、無理なく続けられる運動を見つけてみてください。
患者:
ありがとうございます。自分に合った方法で取り組んでみます。
自分の分からないことを聞かれ返答できない
いくら事前準備をしたり、友人との練習をしていても、全ての内容を網羅できている人はいないと思います。
まして最近は栄養や生活習慣に対して様々な情報が飛び交っている時代です。
自分が指導した内容についても、患者さんが簡単に調べられる時代になっています。
「この食べ物が良いと聞いたのですがどうですか?」
「こんな運動したら良いと聞いたんやけどどうでしょう?」
など、栄養以外の内容も聞かれることがあると思います。
自身が分からないことを知ったかぶりをして間違った情報を伝えてしまい、後から間違っていることに気付かれた場合良い信頼関係は築けなくなってしまいます。
そんな時には分からないことは素直に認め次回までに調べておくことや、適切な専門家を紹介する等の対応をすることで、「この人は親身になってくれる」など良い信頼関係を築くことに繋っていきます。
また質問される内容は疾患や患者さんによってある程度予想ができるため、先輩管理栄養士や同業者などに相談することもおすすめです。
初めてでも安心して栄養指導ができるようになるポイント
ここまで栄養指導の流れや失敗しないためのポイントについてお伝えしていきましたが、それでもまだまだ不安が残っていると思います。
何事も始めから上手くはいかないものですが、なるべく自信をもって栄養指導に臨みたいですよね。
ここからは初めての栄養指導でやっておくべきこと、意識することについてお伝えしていきます。
ここで紹介することはどれも意識すればすぐに取り組めることなのでぜひやってみてください。
事前準備をしっかりと行う
どんな分野でも成功の裏には入念な準備が必要です。
栄養指導においても、事前準備の度合いによって指導内容に大きな違いが出てきます。
当たり前ではありますが、まずは医師からの指示や疾患、血液データ、問診票等の情報を確認します。
そこから患者さんの病状や生活習慣をある程度予想し、指導計画や目標を立てます。
ここでプラスアルファとして患者さんに説明する際のスライドや栄養成分表、カロリー計算表などの資料を用意し、より分かりやすく伝えられるように工夫をします。
時間にも限りがあると思いますが、現在はSNSやインターネットでも様々な資料が紹介されていますので、上手く活用し効率よく準備をしましょう。
患者さんの話を聞く
初対面であるとなかなか会話が弾まない!なんてこともあるかもしれません。
そうなってしまうと、こちらが一方的に話をしていることが多くなってしまいます。
そこで、そのようなことにならないよう、いくつかのポイントをお伝えします。
①クローズな質問、オープンな質問を使い分ける
はい、いいえだけで答えられるようなクローズな質問ばかりになると、会話が続かず淡泊となってしまいます。
「どんな食べ物がお好きですか?」など、具体的に聞きたい内容については、患者さんが自由に話せるような質問を組み合わせることで、より患者さんの話を聴くことができるようになります。
②否定せずに共感する
患者さんとの会話でよく遭遇するのが、患者さんが管理栄養士の視点から間違った食生活をされている場面です。
その際に「それはダメです、間違っています。」などの否定的な意見のみを押し付けてしまうと、それ以降患者さんが話をしにくくなる可能性があります。
まずは「そうなんですね、色々と心がけておられるんですね。」など患者さんの気持ちに共感し、受け入れることが重要です。
③ジェスチャーを大きくする
言葉だけでなく、ジャスチャーなどでのコミュニケーションも重要です。
目を見て話を聴く、笑顔を作る、身振り手振りで理解を示すなど、患者さんに対して興味や関心があることを伝えることも重要です。
必ず患者さんと目標を決める
新人の頃は
「どんな目標を立てればいいか分からない。」
「患者さんが目標に納得していないような気がする。」
といった不安や疑問を抱くことが多いです。
目標設定については、栄養指導以外の分野でも医療やリハビリテーション等さまざまな研究がなされています。
以前は医師や管理栄養士が患者さんの代わりに目標を決め、患者さんはそれに従うといった方法が多く使われていました。
この方法では患者さんの意見や希望はあまり尊重されず一方的な内容のものとなってしまったり、「栄養士さんが立てた目標だし別にいいや。」など目標に対して責任感も生まれないため、患者さんが途中で諦めてしまったり辞めてしまう可能性が高くなってしまいます。
そこで最近では患者さんの意思や希望を取り入れるためにSDM(Shared Decision Making)アプローチという方法で目標設定をすることが多くなっています。
いきなり難しい言葉が出てきましたが・・・患者さんが一緒になって目標を決めるということが大きな特徴です。
この方法では、患者さんの価値観や希望も踏まえて食生活の改善の取り組み方や、今後の計画・目標についても一緒に決めることができるため患者さんのやる気を上げたり、保つといった効果が期待できます。
とは言ったものの、最初から積極的に取り組まれる患者さんは少ないです。
そこで、まずはこちらが患者さんの希望や価値観を考慮し様々な選択肢を用意してみると良いです。
その中から取り組めそうな内容や、ちょっと頑張れば手が届きそうな目標を一緒に選ぶ・考えるといった方法で進めていけばよりよい目標が立てられるようになります。
さらにスキルアップをしたいなら〇〇をしよう
管理栄養士に限らず、〇〇士という職業はその分野の専門家として仕事をしています。
なので専門性を高めていくことは患者さんのためでなく、自身のキャリアアップのためにも繋がっていきます。
ここではスキルアップを目指すためにおすすめな方法について紹介していきます。
常に栄養、食事、病態に対する最新の知識を取り入れる
これは当たり前のことではありますが、知識は常にアップデートしていくことが重要です。
栄養に関わらず世界中で様々な分野が研究されています。
更にはインターネットやSNSの普及で情報が溢れている世の中になっており中には間違った情報も見受けられます。
ここで大事なことは「正しい情報を取り入れる」ということです。
正しい情報を得る方法としてはいくつかありますが、自宅や通勤途中で出来る方法について説明していきます。
①論文や参考書を読む
これは以前からも勧められている方法ですが一番は論文を読むことがおすすめです。
特にさまざまな論文をまとめた内容や、適切な研究方法を用いているエビデンスレベルの高い論文を選ぶことや、自身の患者さんに合うようなキーワードで検索することで正しい情報を取り入れるだけでなく目の前の患者さんにも活かせる学習ができます。
論文を探す際はPubmedやGoogle scholarといった論文検索サイトを利用することがおすすめで、パソコンだけでなくスマートフォンでも検索が可能です。
論文を読むのが苦手という方は参考書を読むこともおすすめです。
②SNSを活用する
近頃ではSNSで学習している専門家が増えています。SNSは自身が欲しい情報がすぐに手に入るだけでなく、中には有料の情報が無料で得られることもあります。
ここで注意したいポイントとしては、
・情報発信者を確認する
・引用文献など情報に信憑性があるのか確認する
・一つだけでなく複数の情報から判断する
といった3つのポイントを押さえれば間違った情報に流されることが少なくなります。
他職種とコミュニケーションを取る
病院での栄養指導の場合、医師や看護士などの他職種に相談することも重要です。
特に病態や患者さんの状態把握については医師や看護士の方が専門性が高く、病気やそれによって患者さんの身体がどうなっているのかを正しく理解できればより的確なアドバイスができるようになります。
また運動などの生活習慣について提案をすることもあると思いますので、その際は理学療法士やトレーナー、健康運動指導士などに相談することもおすすめです。
栄養関連の研修に参加する
論文やSNSなど独自で学習していくことも良いですが、研修や講習会に参加することもおすすめです。
特にベテランの先生から指導を受けることができる、スキルアップに必要なカリキュラムが組まれている、交友関係が広がる点が自身一人の学習との大きな違いです。
おすすめしたい研修を一つ紹介しますので、ぜひご参考にしてください。
日本栄養士会
日本栄養士会は管理栄養士、栄養士の5万人が会員となっており国内外の栄養課題の解決にチャレンジしている職能団体です。
特徴としてはさまざまなテーマの研修会があるだけでなく、認定制度という独自の研修プログラムを作成しており基礎〜専門分野まで段階的に教育を受けることができます。
出典:公益社団法人 日本栄養士会 (dietitian.or.jp)
まとめ
この記事では栄養指導の流れから、失敗しないためのポイント、スキルアップの方法について紹介しました。
栄養指導には基本の流れはありますが、まずは患者さんが話やすい環境を作り患者さんの話を聞くことが重要です。
また事前準備を入念にし、患者さんと一緒になって目標を決めるなどの工夫がより良い指導に繋がっていきます。
管理栄養士、栄養士としての実務をこなしながらスキルアップ・キャリアップを目指すことは大変ですが、専門家である以上自身のため患者さんのために精進していきましょう。
この記事によってあなたの不安が少しでも減り、これからの仕事へ前向きに向き合える手助けとなれれば幸いです。
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