高齢者の栄養指導をするにあたり、高齢者の特徴を理解することが大切です。
高齢者の多くは、加齢に伴い咀嚼力や嚥下力、消化力などが低下し、食べられなかったり、食欲がわかないことも少なくありません。
このため、十分な栄養を摂れずに体調を崩す低栄養などが問題になっています。
食事はただ食べるためのものではなく、楽しく、美味しく食べることで生きがいにもつながります。
元気に長生きするためにも食事の見直しが大切です。
この記事では、高齢者の栄養指導で注意すべきポイントについて説明していきます。
食事について特徴なども説明しますので、参考にしてみてください。
目次
高齢者の食事の特徴
高齢者の食生活の特徴として、独居や高齢者だけの世帯になると
・同じものばかり食べる
・買い物や調理が億劫(おっくう)になる
・食事そのものへの関心が薄れ、食生活が単調になってしまう
・食事の回数が減る
といったことが挙げられます。
また、人との交流が減り社会的に孤立しやすく、外出する頻度の低下や運動不足から食欲低下、食事量の減少を引き起こしやすくなります。
これらに加え、加齢に伴う生理的、社会的、経済的問題も高齢者の栄養状態に影響を与え、低栄養状態が引き起こされやすくなります。
これらの原因があるため、高齢者の栄養指導で「〇〇を食べてください」や「この栄養素を摂れば良くなります」といった内容では、実践しにくい場合もあります。
その人がどんな生活を送っているのか、どんな生活環境(近くにスーパーがあるか、地域の特徴等)なのか、どのくらいの身体機能なのか、なども配慮した指導が必要となってきます。
低栄養とは
高齢者の栄養指導で一番の問題となることが低栄養です。
さまざまな要因から低栄養となりがちです。
低栄養とは、健康的に生きるために必要な量の栄養素が摂れていない状況をいいます。
低栄養は高齢者が要介護状態や寝たきりになる原因の一つとして重要視されています。
栄養指導では、低栄養の改善をしていくことが一番の目標になってくるかと思います。
栄養は身体を作るものです。
いくら運動していても、栄養が摂れていないとだんだんと身体機能低下が起こる可能性があります。
まずは低栄養について説明していきます。
ここを理解することで、高齢者の栄養指導がより実践的で携わりやすくなると思います。
低栄養の要因
高齢者の代表的な低栄養の要因は以下の通りです。
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参考:高齢者の「食と栄養」の現状|健康長寿の「食と栄養」|アクティブシニア「食と栄養」研究会 (activesenior-f-and-n.com)
低栄養の要因は多岐に渡ります。
単体の要因だけでなく、多数の要因から指導していくことが大切になります。
低栄養の影響
低栄養による健康への影響として、問題視されているのがフレイルです。
フレイルとは、身体的な問題のほか、認知機能の衰えなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題などから成り、要介護状態の前段階と位置づけられています。
(「老化に伴う種々の機能低下(予備能力の低下)を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加している状態、すなわち健康障害に陥りやすい状態」のことをいい、健康な状態(健常)と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。)
病気や障害などによる健康の喪失、配偶者や友人など親しい人々との死別による喪失などをきっかけに社会とのつながりを失うと、生活範囲やこころの健康、口腔機能、栄養状態、身体機能までもが低下をきたし、ドミノ倒しのようにフレイルが進行、重症化していきます。
また低栄養状態ではサルコペニアを併発していることがあります。
サルコペニアは、筋肉が減りからだの機能が低下した状態を指します。
高齢者になると、食事はきちんととり健康的であっても、加齢とともに筋肉量や骨量は減少していきます。
筋肉量の減少により転倒しやすくなり、骨量も低下しますので骨折の危険性は増加します。
栄養不足の状態が続くと血液中のアルブミンなどのたんぱく質が減っていきます。
それにより免疫機能が低下し、風邪などの感染症を引き起こしやすくなります。
すると認知機能の低下や創傷治癒遅延などが引き起こされやすくなり、これらがいくつも重なると寝たきり状態や死に至る危険性も高まります。
フレイルの人はサルコペニアを合併することも多く、サルコペニアがフレイルの引き金にもなりかねないのです。
低栄養になる問題点
高齢になると全体の食事量が減り、低栄養が問題になることが多いといわれます。
毎日の食事がおろそかになっていたのでは、元気で長生きが出来ないだけでなく、生活そのものが味気ないものになってしまいます。
しかし、加齢とともに低下していく機能が重なるため、無理に食べようとしても難しいこともあります。
ここでは加齢と共に低下していく機能を理解していきましょう。
味覚が鈍くなる
食べ物や飲み物の味は、舌の表面と口の中の粘膜にある味蕾(みらい)という部位で感知します。
高齢になると、この味蕾の数が減ったり、薬の副作用などで味覚が鈍くなることがあります。
味覚が鈍くなると、通常の味付けでは「味がしない」、「味が薄い」と誤解してしまい、濃い味がおいしいと感じるようになってしまいます。
さらには、味がわからなくなることで「美味しくない」と食欲が無くなり、食事の量が減ってしまうこともあります。
咀嚼力・嚥下力が弱くなる
加齢により、歯の本数が減ったり顎の筋力が低下することで、食べ物を噛む力(咀嚼力)が弱くなります。
また、ひとり暮らしや地域での交流が少なくなり会話をする機会が減り、くちや顎を使うことが減っていきます。
このことで、噛む力がどんどん弱くなり硬い食べ物が嚙み切れなくなります。
そうすると硬い食べ物を食べなくなり、軟らかいものを好んで食べるようになります。
軟らかいものばかりを食べることで、ますます咀嚼(噛む力)が衰えていく、という悪循環に陥ってしまうのです。
また、加齢に伴い口の中の唾液の分泌量が減ることで、口の中の食べた物を上手にまとめられなくなってしまいます。
さらに飲み込む力も弱くなっているので、食べた物や飲んだ物が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。
老人の誤嚥というと「お餅」などの飲み込みにくい食べ物をイメージしがちですが、お茶やお水でも誤嚥を起こすこともあります。
このため、誤嚥しやすい高齢者の食べ物には、水分やとろみをつけて飲み込みやすくする必要があります。
栄養の吸収率が下がる
高齢になると身体の消化吸収力が低下するため、若い人と同じ量の栄養素を摂っても、効率よく筋肉や血管にすることができません。
特にタンパク質は消化に時間がかかるため、噛めない・飲み込みにくい等があるとより胃もたれや不調を感じやすくなり、避けるようになる傾向があります。
間食や栄養補助食品を上手に利用していきましょう。
栄養バランスが偏る
高齢者の特徴として、食事の支度が面倒になり手軽に食べられるパンやお茶漬けなど簡単に済ませることが多くなります。
また、揚げ物や炒め物よりもさっぱりした物を好むようになったり、食べ物の好みが変わっていくことがあります。
毎日簡素な物や同じような物を食べ続けてしまうことで、摂取する栄養素が偏ってしまいます。
また、咀嚼力・嚥下力が衰えてくることで、野菜や肉など硬い物や繊維質の物が食べられなくなってしまいます。
それに伴い、タンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維といった栄養素が摂取できないため、必要な栄養素が不足がちになります。
「老人食だから簡素でいい」というわけではありせん。
むしろ高齢者だからこそ、健康を維持するために、主食・主菜・副菜を毎日しっかり摂ることが大切です。
食事のポイント
高齢者の食事のポイントは、
・必要な食事量、栄養を摂る
・食べやすい食材や調理法
・宅配などを利用する
・栄養補助食品を利用する
・環境を工夫をする
と大きく5つあります。
食事を楽しみの一つとして、豊かな食生活づくりをするためのポイントをご紹介しますので、参考にしてみてください。
必要な食事量、栄養を摂る
1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいか、食事の目安をわかりやすく示してあげましょう。
高齢期に必要なエネルギー摂取量はその人の活動量によって異なりますが、一番身体活動レベルが低いところでは、70歳以上では男性が1850kcal、女性が1450kcalです。
特に意識して摂っていきたいのがエネルギーとタンパク質です。これらが減るとビタミン・ミネラルの摂取量も減ってきます。
肉、魚、卵、乳製品などの動物性タンパク質は人の体の筋肉や血液など身体をつくる役割があります。
タンパク質の摂取不足により血液中のアルブミン量が減少し、低栄養状態を招くリスクが高まるのです。
農林水産省「シニア世代の健康な生活をサポート 食事バランスガイド」に詳しく記載されていますので、参考にしてみてください。
高齢者の低栄養の対策として、元気で長生きのための食生活という内容で以下15項目があります。
【低栄養を予防し老化を遅らせるための食生活指針】
1.3食のバランスをよくとり、欠食は絶対さける
2.動物性たんぱく質を十分に摂取する
3.魚と肉の摂取は1対1程度の割合にする
4.肉は、さまざまな種類を摂取し、偏らないようにする
5.油脂類の摂取が不足にならないように注意する
6.牛乳は、毎日200㎖以上飲むようにする
7.野菜は、緑黄色野菜、根野菜など豊富な種類を毎日食べ、火を通して摂取量を確保する
8.食欲がないときはとくにおかずを先に食べごはんを残す
9.食材の調理法や保存法を習熟する
10.酢、香辛料、香り野菜を十分に取り入れる
11.味見してから調味料を使う
12.和風、中華、洋風とさまざまな料理を取り入れる
13.会食の機会を豊富につくる
14.かむ力を維持するため義歯は定期的に点検を受ける
15.健康情報を積極的に取り入れる
日々の食生活に気をつけていくことで、低栄養を予防し、健康寿命を延ばしていくことができます。
高齢者になると1回の食事量が少なくなるため、不足する栄養素は間食で摂るなど工夫しましょう。
とくに牛乳などの乳製品、果物など栄養の高いものを食べるのもおすすめです。
食べやすい食材や調理法
食べやすい・食べにくい食材や性質のものを以下にまとめましたので、参考にしてみてください。
食べやすいもの | |
おかゆ状の物 | おかゆ、パンがゆ |
乳化してるもの | ヨーグルト、アイス |
ポタージュ状の物 | カレー、シチュー |
ミンチ状の物 | 肉団子、つくね |
ゼリー状の物 | ゼリー、たまご豆腐 |
食べにくいもの | |
硬い野菜 | きゅうり、キャベツ、レタス |
繊維が残る物 | ごぼう、タケノコ |
スポンジ状の物 | かんも、はんぺん |
弾力がある物 | こんにゃく |
噛みにくい物 | かまぼこ、ハム |
のどにつく物 | 海苔 |
食べにくい料理や食材でも、高齢者には必要な栄養素が含まれているので普段の食事に欠かすことができません。
しかし無理をして食べると喉を詰まらせる原因になったり、なにより普段の食事が苦痛になってしまいます。
そこで、食べやすくする・飲み込みやすくする調理の工夫が必要となります。
1口サイズにカットする。 |
トンカツなど厚めの肉は、叩いて薄く延ばす。 また、脂身を切り取ったり包丁で切目を入れることで噛みやすくなる。 |
歯茎で潰せるくらいの軟らかさになるまでゆでる。(野菜) |
大根やニンジンなどの根菜類は、繊維に対して垂直に切ると噛みやすくなる。 また、火で加熱するよりも電子レンジで加熱した方が早く軟らかくなる。 |
キャベツなどの葉野菜も、食材の切り方や電子レンジの活用などで軟らかくなる。 |
豆類やイモ類などの繊維質の食材は、すり身にしてからつみれにすることで食べやすくなる。 |
調理の際に圧力鍋や蒸し器を使うことで、キャベツなどは芯まで軟らかくなる。 野菜炒めなどの炒め物は、食材をゆでてから炒めることで軟らかくて食べやすくなる。 |
食材にとろみ剤や片栗粉、コーンスターチを使って料理にとろみをつけることで飲み込みやすくなる。 |
「調理時間を短くしたい」という場合は、食材をミキサーにかけて細かくする方法もあります。
肉や魚が食べにくい人は、まずは卵や豆腐でたんぱく質を摂るようにするとよいでしょう。卵や豆腐は消化のよい良質なたんぱく質です。
ただ、肉や魚には、卵や豆腐とは異なるアミノ酸やビタミン、ミネラルなどが含まれており、毎日摂る食品の種類が多い人ほど高齢になっても活動能力が高く、長生きであるという調査報告もあります。
毎日でなくても、なるべくさまざまな食品を摂れるよう心がけましょう。
宅配などを利用する
1人だと調理ができない、調理することが面倒、等の人の場合は、宅配食やコンビニ、スーパーなどのお惣菜、冷凍食品などを活用しましょう。
散歩や気分転換も兼ねて、デパ-トやス-パ-などで総菜を購入することも 1つの方法です。
惣菜は味付けが濃いめなことがあるため、高血圧の方は食塩の過剰摂取に気をつけましょう。
また、好きな物やおいしい物に偏りやすくなるので、食品のバランスを考えて購入するようにしましょう。
栄養補助食品を利用する
とはいえ、始めから必要量を摂取するのは難しいこともあります。
その場合は栄養補助食品の活用が有効です。
栄養補助食品にはクッキータイプ・ゼリータイプ・飲料タイプなどさまざまな物があります。
クッキータイプの食品は、栄養素が取れるだけでなくお腹にたまりやすく満足感のある商品も多いです。
ただ、飲み込みが悪い高齢者の方は詰まらせてしまう可能性があるので注意が必要です。
飲料タイプは水分補給する感覚で効率よく栄養補給できるので、固形物が食べづらい人や食欲がない人にもおすすめです。
甘酒も栄養補給に利用できます。
ゼリータイプは食欲がない時でも食べやすいのが特徴です。
また、むせやすかったり、噛む力や飲み込む力が弱くなったりした方でも食べやすいのが魅力です。
粒や錠剤で栄養補給できるサプリメントタイプは、いつでもどこでも手軽に飲みやすいのが特徴です。
また、自分が欲しい栄養素をピンポイントに摂取しやすいのもサプリメントタイプのメリットといえます。
しかし、高齢者は複数の薬を飲んでいる方も多く、サプリメントなどと一緒に飲むと悪い影響を与えることがあるので、必ず医師や薬剤師に相談するようにしてください。
栄養補助食品にはアイスタイプもあり、おやつかわりに摂取できます。
いろいろな形態や味がありますので、好みに合うものを試してみてください。
環境を工夫をする
食事はただ食べるためのものではなく、楽しく、美味しく食べることで生きがいにもつながります。
しかし、独居や高齢者二人のみの世帯では、食事の時の会話の楽しみなどが減りがちで、簡素化したり食欲低下や食事量の低下を生じることもあります。
生活リズムの乱れから、朝食、昼食が一緒になり1日2食になることもあります。
・食べる場所を変える
居心地がいいと感じる場所に変えてみましょう。
みんなと食事したり、外食など気分転換を図るのもいいでしょう。
他にも、新しい場所に行くことで、新たな刺激を受けたり、人との交流が生まれたりすることもあります。
これらの要素が、食事をより豊かな体験にすることにつながります。
・食べる時間を変える
食事の時間が家族の都合で提供されている場合、高齢者には高齢者の生活リズムに合わせてみることも1つの手です。
生活リズムが合わないと食べられないこともあるので、高齢者の体内時間に合わせて食事時間を変更してみましょう。
また、一度に多くの食事ができない場合、1日何回かに分けて食事をすると、胃に負担が少なく気軽に食べることができます。
・誰かと一緒に食べる
家族みんなで会話をしながら食事をとることで、食事の時間が楽しくなります。
特に高齢者は疎外感を感じやすいので、できるだけ誰かと一緒に食べるようにしましょう。
厚生労働省が掲げている「地域包括システム」の構築の一環として、行政機関や社会福祉協議会などが、地域での交流の場づくりを行っています。
最近では、体操教室やサロン活動、定期的な食事会などを開催をしている地域が増えています。
こういった地域の交流の場を積極的に活用していきましょう。
まとめ
日本は高齢者人口が全体の25%を超えています。
高齢になっても要介護状態にならず、健康寿命をいかに延ばすかは大きな課題です。
健康で長生きするためには、やはりバランスのよい食事が大切です。
バランスの良い食事だけでなく、誰と食べるか、どんな環境で食べるかも重要な要素になってきます。
食事は、健康のためだけでなく、高齢者のQOL(生活の質)の向上のためにも、美味しく、楽しくするようにしましょう。