
特定保健指導の仕事に興味はあるけれど、実際に身の回りに従事している人がいないため、必要な資格や実際の仕事内容がわからないという方もいらっしゃると思います。
今までの業務と異なる分野への転職・就職は、業務内容だけでなく働き方の特徴や大変なポイントを把握した上で検討したいですよね!
特定保健指導の実施には医師・保健師・管理栄養士・看護師の国家資格が必要で、国家資格を所持していれば特定保健指導の実施は可能です。
しかし、特定保健指導を上手く行うにはコツも必要とされており、実際に働いたものの想像と異なっていたというケースも多くあります。
本記事では、特定保健指導の業務内容や働き方の特徴、大変なポイントなどについて具体的な例も紹介しますので、今後特定保健指導の仕事をしたいと考えている方にぜひ読んでいただきたいです。
目次
特定保健指導に必要な資格

特定保健指導に必要な資格は以下の通りです。
- 医師
- 保健師
- 管理栄養士
- 看護師(保健指導に関する一定の実務経験を有する看護師も特定保健指導の実施者として令和11年度末まで認可されている)
これらの国家資格を所持していないと特定保健指導を行うことはできません。
特定保健指導は、生活習慣病に対する知識や栄養に関する知識を使って、対象者が健康に生きていくためのサポートをするため、専門知識を持った国家資格所持者のみが指導できることとなっています。
参考:特定保健指導の概要
特定保健指導の業務内容

インターネットで調べても特定保健指導の具体的な業務内容についての記事は少ないです。
この章では、特定保健指導の具体的な業務内容について、事前準備、保健指導、目標設定・実績評価、記録作成に分けて、1件の特定保健指導の実施で行われる業務についてお伝えしていきます。
事前準備
健診データや生活習慣に関する質問表からどのような課題があるかを把握します。
特定保健指導は条件がいくつ該当するかで、積極的支援と動機付け支援に分類されます。
条件:
腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、またはBMI25以上の方
かつ血糖・脂質・血圧の追加リスク
病院などで行われる栄養指導などは医師の指示のもとで行われますが、特定保健指導は医師の指示のもとでの実施ではありません。
しかし、対象者の中には定期通院をしている方もいらっしゃるので、既往歴の有無を確認し、必要に応じて医師から食事・運動に制限がないかを確認しましょう。
質問表では、欠食の有無や間食の頻度、飲酒量など様々な内容の回答があるため、事前に把握することで、初回面談時で何を重点的にヒアリングするかに役立てることができます。
健診データで受診勧奨値に該当する数値がある場合は受診状況についてもヒアリングし、未受診の場合は、放置しておくことのリスクを説明し受診を勧めることも大切です。
また、過去にも特定保健指導の実施歴がある場合は過去の記録も確認しておきましょう。
保健指導
保健指導を行う上で重要なポイントはたくさんありますが、この章では保健指導を実施する上で重要となる
①対象者との信頼関係の構築
②情報収集・アセスメント
について注目してお伝えします。
対象者との信頼関係の構築
対象者と信頼関係の構築ができることで特定保健指導の成果につながりやすくなります。
最初に自己紹介を行い、対象者の話すスピードや理解の度合いなど対象者のペースを大切にして話しやすい雰囲気作りを意識して保健指導の実施が重要です。
情報収集・アセスメント
第4期特定健診・特定保健指導からは対面・ICTのどちらでも面談を20分以上の実施へ変更となっています。
対象者は忙しい中で時間をつくって保健指導を受けている方もいるので、限られた時間の中で情報収集およびアセスメントを行っていく必要があります。
限られた時間のため、保健指導を実施する側が質問を次々に行ってしまいやすいですが、対象者へクローズクエスチョンとオープンクエスチョンを交えて、対象者の気持ちや意向も聞き出していくことが大切です。
特に、健診データや健康についてどのように考えている・受け止めているかをヒアリングすることで、行動変容ステージモデルのどの段階にいるかを把握できるため、丁寧にヒアリングしましょう。
特定保健指導では食事・運動・飲酒・睡眠と様々な項目のヒアリングが必要となり、限られた時間の中で行うためにも質問の仕方も工夫が必要です。
例えばですが、「ご飯の量はどのくらい食べますか?」という質問をされたら、どのように答えますか?
「そんなに食べてないよ」や「軽く1杯くらいだよ」などと返答する方もいますよね。
そんなに食べてないというのが人によっては、どんぶり茶碗1杯という人もいる可能性があります。
食事量を聞くときは、ご自身の拳だと何個分のご飯量ですか?コンビニのおにぎり何個分のご飯量ですか?などと具体的な量をヒアリングすることが正確なアセスメントにつながります。
健診データの情報や面談の中でヒアリングした情報から、現在の対象者の課題をアセスメントします。
アセスメントする上で大切なのは対象者の行動変容ステージモデルを把握し、ステージにあった介入を行うことです。
行動変容ステージモデルとは、生活習慣を改善しようとする意図と行動の状況により、
- 無関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思ってない
- 関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っている
- 準備期:1ヶ月以内に行動を変えようと思っている
- 実行期:6ヶ月未満の明確な行動変容が確認される
- 維持期:6ヶ月以上の明確な行動変容が確認され、継続される
の5つのステージで評価されます。
介入が難しいとされている無関心期の方への介入のポイントについては、4章:無関心期の方への保健指導でご紹介しているので、ぜひご確認ください。
目標設定、実績評価
目標設定はその方の理解度や行動変容ステージモデルに合わせて個別性のある目標の立案が必要です。
改善しなければならないことを理解していながらも、行動変容が難しい方もいるので、生活習慣を改善することで得られるメリットと現在の生活習慣を続けることのデメリットを伝えて、行動変容の必要性の気付きの促しを行うことが大切です。
個別性のある目標の立案について具体的な目標を例に詳しくみていきましょう!
例えばですが、対象者は毎日5%の缶ビール500mlを3本飲酒されていて、肝機能も要精密検査の数値に該当しています。
もちろん禁酒することが肝機能の改善や体重減少のために重要ではありますが、この方は「お酒を飲むのが大好きなんだよ。お酒はやめられないよ。」と言われます。
このような方に「禁酒する」の目標を立てた場合、特定保健指導の目的である生活習慣の改善のための自主的な取り組みを継続的に行うことができるを達成できるでしょうか。
特定保健指導の期間だけでなく、その後も継続的な取り組みを行うためには、対象者がどのくらいの目標であれば取り組みできるか相談していく必要があります。
アルコールの適正量や休肝日の重要性、適正量を越えた飲酒を継続したときのリスクなどを説明し、毎日飲酒しているのをまずは週2の休肝日をつくる、缶ビール500mlを3缶飲んでいるため、まずは2本に減らすなど、「これならできそう」と思える目標を立てることが大事です。
スモールステップで、達成できたら少しずつ休肝日を増やすことや飲酒量を減らし、最終的には適正量以下、もしくは禁酒できるようサポートをしていきます。
2024年度から始まった第4期特定健診・特定保健指導では、従来のポイント制度であるプロセス評価だけでなく、アウトカム評価も導入されました。
アウトカム評価では、3ヶ月後に主要達成目標である健診時の体重・腹囲2kg・2cm減少している場合はその時点で指導完了となります。
未達成の場合は、食習慣・運動習慣・喫煙習慣・休養習慣・その他の生活習慣の対象者の行動変容が2ヶ月以上継続されている場合にポイント加点が付き、プロセス評価と合わせて180ポイント以上になると指導完了となります。
そのため、これまでよりも対象者への動機付けを行い、行動変容を求められています。
記録作成
面談や支援の終了後は、ヒアリングした内容や指導内容を記録に残します。
記録の記載方法は勤務先によって異なりますが、SOAP形式での記載が多い傾向にあります。
特定保健指導は初回面談から実績評価まで同じ担当者が担当する場合と、担当者が支援毎に変わる場合があります。
特に、対象者の健康に関する考えや行動変容ステージなどは今後の支援においても大切となってくるため、他の人が担当することになってもスムーズに対応できるようしっかりと記録を残しておく必要があります。
参考:第4期特定健診・特定保健指導の概要とポイント ―主要達成目標は「腹囲2cm・体重2kg減」―
特定保健指導での働き方

実際に特定保健指導の仕事をしたいと考えたときに、働き方の特徴について知りたいですよね。
この章では、働き方の特徴と気になる収入面についてお伝えしていきます。
働き方の特徴
特定保健指導は対面での実施だけでなくICT面談も多いため、自宅で面談など支援を行うことができる在宅勤務が可能なケースもあります。
また、病院で勤務していると日勤や夜勤と交代勤務が多いですが、特定保健指導では夜勤帯の仕事はなく、生活リズムが崩れにくく、家庭やプライベートと仕事を両立しやすい環境です。
働きやすい環境であるのが特徴ですが、特定保健指導の求人を検索すると正社員の求人よりも業務委託契約での求人が多く出るため、希望の雇用形態にあった求人があるかの確認が必要です。
収入について
病院で夜勤をすると夜勤手当が付与されるため、夜勤を行っている方は給与が下がると感じられるかもしれません。
しかし、夜勤勤務がないためプライベートと仕事の両立や体調管理もしやすいのがメリットです。
業務委託契約の場合、特定保健指導の初回面談1件あたりが1600〜2000円に設定されていることが多いです。
保健指導前後の事務作業に慣れてくると40分程度で1件を終えられるため、慣れると1日に入れる件数を増やせるので収入UPにつながります!
また、雇用形態が正社員でなく、業務委託契約の場合は、自分で業務量を調整することができることがメリットの1つですが、時期によっては仕事が入りにくいなど安定した収入につながらない可能性もあります。
特定保健指導を行う上で大変なポイント

ここまで読んでいただいて、特定保健指導について理解を深めていただきましたが、実際に仕事を行う上で大変なポイントについてこの章で紹介します。
特に無関心期の方への保健指導は、保健指導を行う中で悩むポイントになりやすいのでぜひ読んでいただきたいです。
事務作業が多い
特定保健指導に限らず、どのような仕事でも事務作業はあるかと思いますが、面談支援を行って終わりではなく、必ず面談の事前準備と事後作業として記録の作成があります。
業務委託契約の場合、事前準備と事後作業を含めて1件分の単価契約のため、慣れるまでは面談以外にも時間がかかってしまう可能性があります。
しかし、件数をこなすうちにスムーズに作業ができるようになります。
正社員の場合は、進捗状況の管理や業務委託契約の方の対応など特定保健指導業務以外にも事務作業が多く発生します。
繁忙期と閑散期に差がある
新年度が始まった4~5月に健診を行う企業が比較的多いため、健診結果が出て、階層化が終わり、夏~秋にかけて特定保健指導の実施件数は増える傾向にあります。
特定保健指導が始まれば3ヶ月指導が続くため繁忙期が続きます。
従業員の誕生日月に健診を行う企業もあるため一概には言えませんが、冬~年度終わりにかけて健診数が減ると、特定保健指導の実施件数も減少するため、結果として閑散期になります。
そのため、年間を通してみると繁忙期と閑散期に差があるため、業務委託契約でたくさん働きたいと思っていても、思うように仕事が入らない時期が出る可能性もあります。
無関心期の方への保健指導
特定保健指導への申し込みは任意ですが、健康保険組合は実施率を求められているため、会社から申し込むように言われて申し込みをされる方も少なくありません。
そのため、関心が低く行動変容ステージモデルの「無関心期」に当てはまる方もいて、関心期~維持期の方より保健指導が難しいと感じることが多いかもしれません。
無関心期の方の特徴としては、行動を変容することに対して無関心な状態や職場から保健指導を申し込むように言われて抵抗を示している可能性があります。
支援のポイントとしては、まずは信頼関係の構築を優先することが大切です。
また、行動変容の必要性を正しく理解してもらい、関心を持ってもらう支援が必要となりますが、一方的な情報提供にならないよう対象者の様子に合わせて寄り添った姿勢を意識することが信頼関係の構築につながります。
参考:4 効果的な保健指導とは~行動変容ステージに基づくアプローチ
未経験でも特定保健指導はできる?

できるかできないかで言うと特定保健指導を実施するのに必要な資格を所持していれば未経験でも特定保健指導は可能です。
しかし、求人を見てみると経験者募集が多く、未経験でも応募可能な求人は少ないです。
特に正社員の求人は経験者の募集が多く、未経験でも可能な求人は業務委託の募集である傾向があります。
そのため、ゆくゆくは正社員として働きたい場合は、まずは未経験でも応募可能な求人に応募して、経験を積んでから経験者募集の正社員求人に応募するのも方法の1つです。
未経験でいきなり特定保健指導を行うのが不安という場合は、栄養の知識について学んでスキルアップすることもおすすめです!
また、特定保健指導の経験者の方も、知識のブラッシュアップとしておすすめなのが、「臨床栄養医学協会」です!!
特定保健指導を行っていると対象者の方から「○○って健康に良いって聞いたけれどどうなの?」と質問されることが多々あります。
SNSなどに様々な情報が溢れているため、正しい栄養の知識を持ち対象者の方へ伝えることが大切です。
当協会では、医学的根拠をもとに最新の栄養の知識を学ぶことができ、認定試験に合格すると「臨床栄養医学指導士」の資格を取得することが可能です。
講座は全てオンラインで実施され、基礎から学ぶことができるため特定保健指導が未経験の方でも安心して学ぶことができますので、少しでもご興味のある方はチェックしてくださいね!
参考:臨床栄養医学協会
まとめ
特定保健指導に必要な資格や業務内容、働き方の特徴や大変な点についてご紹介しました!
特定保健指導は大変な点ももちろんありますが、特定保健指導の仕事をして得られることもたくさんあります。
特定保健指導を通して対象者に少しでも生活改善のための行動変容が見られて、実際に体重や腹囲、血液データや体調の変化などにつながると指導者の喜びにもつながります。
また、様々な行動変容ステージの対象者と関わるため、自分のコミュニケーションスキルやアセスメント力をスキルアップすることも可能です。
ぜひこの記事を通して、特定保健指導に興味を持っていただけると幸いです!



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