貧血の根本原因に迫る栄養指導のポイントを徹底解説!注意点も紹介!

一般社団法人臨床栄養医学協会

執筆者一般社団法人臨床栄養医学協会
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当臨床栄養医学協会では、生化学及び生理学に基づく栄養学に関する正しい知識の普及と、ビジネス化推進を行います。
「知識を得る」「資格取得」だけではなく、必要な経験・実績を積むことでビジネス化をサポート致します。

貧血の改善や予防には栄養指導が重要な役割を果たします。

しかし、いざ貧血の栄養指導をするとなると、押さえるべき大切なポイントや意識するべき点は何かなど、迷うことも多いのではないでしょうか。

 

貧血の栄養指導といえば鉄やビタミンなどの栄養素を補う、といった指導の方向性は何となくわかるけれど、それだけでは内容の浅い指導になりかねません。

 

貧血症状の裏に隠れた背景まで探り出し、その根本にアプローチすることが貧血の改善や再発予防には欠かせないのです。

 

そのため、この記事では貧血の原因になりうる問題点を探りアセスメントする方法から、一人一人に合った栄養指導をするポイントをお伝えしています。

さらに、患者・対象者が実践できるようになるための導き方や栄養指導の注意点にも触れています。

 

ぜひ最後まで読んで、貧血のある方への栄養指導に役立ててください!

 

貧血の栄養指導のポイント

 

貧血の栄養指導では、多岐にわたる貧血の原因を見極め、一人一人に合ったアドバイスを行うことが大切です。

不足した栄養素の補充だけでは一時的な効果に留まってしまう可能性が高いので、原因にアプローチしつつ、患者・対象者本人がセルフケアを実践し、それを継続できるような関わりを持ちたいですね。

ここでは貧血の栄養指導を行う上でのポイントについて見ていきましょう。

 

栄養アセスメントを行う

アセスメントとは『査定・評価・判断』などを意味する言葉で、栄養アセスメントとは患者・対象者の情報を分析して問題点や改善点を洗い出し、必要な対応を判断することです。

 

貧血の栄養指導において何よりも大切なのは、患者・対象者の食事や生活習慣などの情報から貧血の原因になっている問題点を明確にすることです。

 

そのためには、できる限り詳細に患者・対象者の食事や生活習慣、自覚症状や現在の体調、身体所見等について情報収集し、アセスメントして一人一人の状態を見極めることが必要になります。

 

食事面の栄養評価だけでなく、摂取したものを消化・吸収できているか(胃腸機能の評価)、過剰な血液の損失は無いか、甲状腺機能はどうかなど、身体の状態を総合的に評価することがとても重要です。

胃腸機能や甲状腺機能など、身体機能は全てエネルギーに依存しており、互いに密接に関連し合っていることを再度意識しておきましょう。

 

貧血の栄養アセスメントで役立つ身体の症状とその原因について、よければ下表を参考にしてください。

腸内環境悪化

消化機能低下

甲状腺機能低下

過多月経

症状
  • 腹痛腹部膨満
  • 下痢
  • 消化不良
  • おなら
  • 脂質を受けつけないなど
  • 胃痛、腹痛
  • 腹部膨満
  • 嘔気
  • 食欲不振
  • 下痢
  • おなら
  • 体重減少など
  • 無気力
  • 疲労感
  • 冷え性
  • むくみ
  • 体重増加
  • 記憶力低下
  • 便秘
  • 肌の乾燥
  • 薄毛
  • 生理不順など
  • 月経血量が80ml(140ml)/回以上
  • 月経期間が長い
  • 経血にレバーのような塊が混ざるなど
原因
  • 加齢
  • 出生経路
  • 乳児期の栄養方法
  • カロリー不足
  • 高脂肪/高タンパク食
  • 食物繊維不足
  • アルコール過剰
  • 薬の影響
  • 喫煙
  • 運動不足
  • ストレス
  • 消化能力低下
  • 甲状腺機能低下
  • 交感神経過緊張
  • 甲状腺機能低下
  • 腸内環境悪化
  • 胃切除後
  • 胃がん・食道がん
  • 遺伝的要因
  • 環境要因
  • 性ホルモン
  • 腸内環境悪化
  • 甲状腺ホルモン産生
    メカニズムの問題
  • 子宮の器質的疾患
  • 明らかではないが、
    エストロゲン過剰が
    疑われる

(肥満、薬の影響、
肝機能障害、アルコール、
慢性ストレス、
植物エストロゲン、
環境エストロゲンなどの影響)

 

 

長期目標・短期目標・行動目標を立てる

栄養指導の次はいよいよ患者・対象者本人が実践をする訳ですが、行動に移すには目標が必要です。

その目標は以下の長期目標・短期目標・行動目標の3つを考えます。

 

1.長期目標

最終的なゴールに近いものです。

貧血症状の改善や再発予防のために、生活習慣改善を継続・定着させることを目指します。

 

また、例えば以下のように貧血の原因自体にアプローチ可能なものは、その原因改善にも取り組むことを含みます。

  • 過多月経で血液の喪失量が多い場合…過多月経の根本原因(エストロゲン過剰等)にアプローチ
  • 消化不良や腸内環境が悪い場合…栄養を吸収できるように胃腸機能改善のアプローチ

 

2.短期目標

長期目標に向かう中間地点で達成できるような、生活習慣を少し変えることで手の届くものです。

ハードルの低いものにしてモチベーションを保つことができるようにします。

貧血の対症療法もこれに含まれるでしょう。

 

3.行動目標

具体的な行動指針になるものです。

一人一人に合わせた無理のないものに設定することで、少しずつ達成感を積み重ねていきます。

1-3食事のアドバイスをするにも関連しますので、参考にしてください。

 

また本人が改善したいと希望する症状等があれば、それを目標に加えることで本人の意欲が湧くきっかけにもなるので、あわせて確認しましょう。

 

食事のアドバイスをする

栄養指導をする側としては患者・対象者に早くよくなって欲しいので、理想の食事や習慣を促したくなりますが、本人が実践・継続できなければ症状が改善しなかったり、貧血を再発するかもしれません。

 

例えば、一人暮らしで仕事が忙しく食事は外食やお惣菜が中心の方に、いきなり自炊中心の食事にするように言っても本人が感じるハードルはかなり大きなものになります。

この場合は外食のメニュー選びやお惣菜選びのコツを教えてあげる方が実現可能性が高くなるでしょう。

 

他にも、長年朝食を食べていない方にバランスの整った朝食を食べるように指導しても、生活リズムを変える必要があり、身体も消化機能が追いつかないなど、急に食べるようにするのは難しいでしょう。

まずは朝食に何か簡単なもの(ヨーグルトや果物など)を少しずつ食べるように指導したり、朝食のために10分だけ早起きするようにするなど、本人と相談しながらできそうなものを探っていきましょう。

 

また、実際に栄養指導を行う際には分かりやすい資料を使うことも大切です。

指導する側は専門家なので知識がありますが、患者・対象者は必ずしもそうとは限りません。

栄養について知識のない方でも自分で食事療法を実践していくためには、正しく理解しておいてもらうことが重要なので、そのためにもできるだけ分かりやすく伝わりやすい資料を用意しましょう。

 

最近はインターネット上でも栄養指導に使える便利なツールがたくさん存在します。

当協会の以下の記事では栄養指導の資料について詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

栄養指導の資料はこれでOK!おすすめテンプレサイトと作成手順を紹介

 

このように、情報収集で掴んだその人の性格や生活習慣・食生活の特性を理解して食事アドバイスに反映させられると良いですね。

 

定期的なアセスメントを繰り返す

栄養指導は一度指導して終わりではなく、その人が実際に食生活改善に取り組んでみて変化があったか、本人に合っているか、継続できているかなど再度アセスメントすることが大切です。

 

そして必要があれば目標を設定しなおしたり、達成できた目標があれば次の目標を立てていきます。

もし食生活改善をしたことで体の不調が出てきた場合は、その原因をアセスメントし別のアプローチを考えます。

 

このように栄養指導は一度きりでは完結しないので、フォローアップを十分に行うことが必要です。

今までの食事や習慣を変えることは簡単なことではなく、患者・対象者のモチベーションが下がらないように二人三脚で取り組んでいきましょう。

そしていずれは患者・対象者が自走できるように栄養指導で導いていきましょう。

 

そもそも貧血とは

貧血の栄養指導を行うには、貧血についての基本知識を身につけておくことが大切です。

患者・対象者に貧血症状がなぜ起こっているのかを説明し理解してもらうことが、本人の行動変容を起こすことにつながるためです。

 

また、栄養指導する側も貧血の原因が理解できていないと、どう改善して良いかもわかりません。

目の前の患者・対象者がなぜその症状なのか、どうアプローチしていくかを考えるためにも、そもそも貧血とは何かをここで整理しておきましょう。

貧血の症状

貧血とは、全身に酸素を供給する赤血球中のヘモグロビン濃度が低下した状態をいいます。

 

貧血の症状には、息切れ・動悸・頭痛・めまい・立ちくらみ・易疲労感・爪が割れやすい・舌の炎症・氷食症・脱毛・肌荒れ・倦怠感・怒りやすいなどが挙げられます。

 

貧血ではヘモグロビンという酸素の乗り物が足りずに、全身の細胞に酸素が十分に行き渡らないので身体の各組織が息切れしているような状態なのです。

 

貧血の種類と原因

貧血は全身の組織が酸欠状態になり貧血症状を呈しますが、そもそも摂取カロリーが不足していたり、必須栄養素が不足することでもエネルギーがうまく作り出せずに、貧血症状を呈することもあります。

 

貧血症状の裏に原因疾患が隠れていることもあるので、まずは医師の診断を仰ぐことが大切です。

 

その上で、エネルギー代謝障害が何によって引き起こされているのかを栄養面からも探っていくことが重要になります。

 

貧血は原因によって種類が分けられますが、ここでは代表的な4つの貧血について説明します。

それぞれの原因や治療について、分かりやすいように表にしました。

①鉄欠乏性貧血

②巨赤芽球性貧血

③溶血性貧血

④再生不良性貧血

原因

  • 鉄の摂取量不足
  • 鉄の必要量増加
  • 鉄の吸収困難
  • 鉄の喪失増加
  • 栄養障害
    (ビタミンB12、
    葉酸などの摂取不足)
  • 胃粘膜萎縮等
    による消化不良・
    吸収困難
  • 抗がん剤や
    免疫抑制剤など
    一部の薬剤の影響
  • 免疫異常
  • 細菌感染や
    抗酸化物質欠乏
  • 活性酸素の増加
  • 過度な衝撃の
    かかるスポーツ
  • 骨髄の異常など骨髄に
    起因するものが多い

治療

  • 食事療法
  • 鉄剤投与
  • 食事療法
  • ビタミンB12、
    葉酸投与
  • ステロイド療法
  • 免疫抑制療法
  • 脾臓摘出
  • ステロイド療法
  • 免疫抑制療法
  • 輸血
  • 造血幹細胞移植

備考

  • 赤血球の材料である
    鉄が欠乏
  • 日本で一番多い
  • 材料(V.B12・葉酸)不足で
    赤血球が大きくなってしまう
  • 胃酸の成分で
    V.B12を吸収する
  • 胃切除後の場合は
    薬物療法中心となる
  • 赤血球が
    壊れてしまう
  • 指定難病の一つ

 

鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの主成分である鉄分が不足することで起こり、日本で一番多い貧血です。

鉄分が不足する原因としては、鉄の摂取量不足・必要量増加・吸収困難・喪失増加が挙げられ、それぞれの詳細は以下の通りです。

  • 鉄の摂取量不足…欠食や偏食などの食生活の乱れから鉄の摂取量が不足している場合など
  • 鉄の必要量増加…月経のある女性、妊娠・授乳中の女性など
  • 鉄の吸収困難…胃腸機能が弱っている場合など
  • 鉄の喪失増加…過多月経のある女性、胃潰瘍・痔など慢性出血のある場合など

鉄については3-2鉄分についてで詳しく記載しています。

 

巨赤芽球性貧血は、栄養素不足によって赤血球を正常に作ることができずに、通常よりサイズが大きく不完全な赤血球が作られてしまいます。

栄養素不足は、ビタミンB12・葉酸などの摂取不足や、胃粘膜萎縮による消化不良で吸収不足を起こすことで生じます。

菜食主義や食物アレルギーなどで動物性食品を控えている人は、ビタミンB12が不足しがちです。

また、抗がん剤や免疫抑制剤など、一部の薬物は葉酸の代謝に影響を与えることがあります。

ビタミンB12と葉酸については3-3-1ビタミンB12と3-3-2葉酸に詳しく記載しています。

 

溶血性貧血は、赤血球が壊されて溶け出してしまう貧血です。

赤血球が壊される原因は、免疫異常・細菌感染・抗酸化物質の欠乏・活性酸素の増加等によって赤血球が傷ついたり、過度な衝撃のかかるスポーツで足裏の血管が衝撃を受けることが挙げられます。

 

再生不良性貧血は、骨髄の異常など骨髄に起因するものが多く、難病に指定されています。

原因は不明なことも多く、専門の医療機関での治療が必要です。

 

この中でも特に、①鉄欠乏性貧血や②巨赤芽球性貧血は、偏った食事や吸収困難等に関連するため、栄養指導の対象になることが多いです。

 

①鉄欠乏性貧血では鉄剤投与が、②巨赤芽球性貧血ではビタミンB12や葉酸投与がメインの治療法となり、医師と連携しこれらを補充して症状を緩和させる必要はあります。

 

しかし背景には、①②の貧血の主な原因である鉄・ビタミンB12・葉酸の不足だけでなく、他の栄養素不足も抱えている可能性を念頭においておきましょう。

そして同時に、貧血を起こしている根本原因にもアプローチして貧血改善を目指し、貧血の再発や長期間の薬剤摂取による副作用や体への負担がないように栄養指導で導いていきたいですね。

 

また、その他の貧血であっても、バランスの良い食事を心がけることはエネルギー代謝を適正に保つ上で大切になります。

 

貧血を改善・予防する食事のポイント

栄養指導とは?

2-2貧血の種類と原因でもお伝えしたように、①鉄欠乏性貧血と②巨赤芽球性貧血は食事での改善・予防が期待されます。

ここではこの2つの貧血に対する食事のポイントを見ていきましょう。

食事のバランス

鉄やビタミンB12・葉酸が足りていても、摂取カロリーが足りないとエネルギー不足や他の栄養素不足によって、結局エネルギー代謝異常を引き起こしてしまいます。

 

そのためいずれの貧血でも、まずは摂取カロリーを適正化することと、PFCバランスを整えていくことが大切です。

 

推定エネルギー必要量は以下の通りですが、詳細な必要エネルギー量は、年齢・性別・活動レベル・身長・体重等によって異なるため、患者・対象者ごとに算出しましょう。

  • 成人男性(活動レベルⅡ)・・2,600〜2,700kcal/日
  • 成人女性(活動レベルⅡ)・・1,950〜2,050kcal/日

 

また、目標とするPFCバランス(%エネルギー)は以下の通りです。

  • たんぱく質・・・13〜20%
  • 脂質・・・20〜30%
  • 炭水化物・・・50〜65%

 

出典:日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

 

そして、食事バランスを整える際には定食に近いかたちを意識すると自然とPFCバランスも整いやすく、ビタミン・ミネラルも充足しやすくなることを患者・対象者に伝えましょう

 

定食に近いというのは以下のような食事で、一汁三菜プラス果物や乳製品といった内容です。

  • ご飯 or パン
  • 主食もう一品(芋系、南瓜、オートミール、とうもろこし、栗など)
  • おかず(⾁、⿂、⼤⾖、卵など)
  • サラダ(野菜、きのこ、海藻類など)
  • 味噌汁(味噌、海藻類など)
  • 果物(旬の果物)
  • 乳製品(チーズ、⽜乳、ヨーグルトなど)

 

鉄分について

鉄が不足すると鉄欠乏性貧血を起こすため、日々の食事から意識して摂取することが大切です。

ここでは鉄について見ていきましょう。

 

推奨摂取量

食事から摂取された鉄は、十二指腸から空腸上部で腸管上皮細胞内に吸収され、多くは骨髄において赤芽球に取り込まれ、赤血球の産生に利用されます。

令和元年の国民健康・栄養調査では、男性は概ね推奨量を満たしていますが、女性では不足していることが報告されています。

 

1日あたりの鉄の摂取推奨量については以下の通りです。

  • 男性・・7.0〜7.5mg
  • 月経のある女性・・10.5〜11mg
  • 月経のない女性・・6〜6.5mg
  • 妊娠初期・授乳中の女性・・9mg(月経がある時より少ないが、あえて減らす必要はない)
  • 妊娠中・後期の女性・・16mg

 

このように、女性では月経の有無や妊娠・授乳期によって数値が異なることに注意が必要です。

 

また、鉄剤やサプリメントの不適切な利用によっては、過剰摂取の可能性があることに注意しましょう。

鉄は不安定な物質なので、過剰摂取で体内に蓄積した鉄は酸化促進剤の働きをしてしまい、体内の組織に炎症を起こし心血管疾患等のリスクを高めることが報告されています。

そのため、鉄剤やサプリメントの使用については医師の判断を仰ぎ、過剰摂取が起こらないように患者・対象者に指導することがとても大切です。

 

出典:令和元年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省

   日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

 

食材に含まれる鉄の量

さて、それではどんな食材に鉄が含まれているのでしょうか。

各食材に含まれる鉄量に関しては以下を参考にしてください。

このように、大麦系、玄米、大豆、ほうれん草、ちんげん菜、赤身肉、レバーなどは鉄が豊富で、脂肪分の多い肉や乳製品、果物は鉄が少ないことがわかりますね。

 

特に妊娠中期・後期の女性は、鉄の摂取推奨量がとても多くなるので以下のような工夫をして鉄の摂取ができるように助言しましょう。

  • 緑黄色野菜を意識して取る
  • 大豆類を増やす
  • たまに玄米・オートミールを取り入れる
  • レバーなどを週1回プラス
  • ひじきを使った料理をプラス
  • 妊娠中後期は食べる量も増やす
  • 鉄鍋を利用する(毎回の調理で使用、強い酸性のものを調理等は鉄の過剰摂取になるので注意)

 

ヘム鉄と非ヘム鉄

鉄には動物性食品に含まれるヘム鉄と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄があります。

 

一般的な貧血の栄養指導では、ヘム鉄の方が吸収率が良い(15〜50%)ため、ヘム鉄を積極的に摂取するように、と言われることが多いです。

しかし、非ヘム鉄は妊娠時など身体が必要としている状態によっては吸収率が変動(通常3〜10%が40〜66%まで上昇)することが分かってきています。

 

出典: Barrett JF, Whittaker PG, Williams JG, Lind T. Absorption of non-haem iron from food during normal pregnancy. BMJ. 1994 Jul 9;309(6947):79-82.

 

さらに日本人は古来より穀物や野菜など植物性食品を多く摂取してきた歴史があり、今でも植物性食品を中心に摂取していることからも、非ヘム鉄をしっかり摂ることが大切です。

 

またヘム鉄は過剰摂取のリスクもあり、心血管疾患等のリスク増加との関連が言われていたりします。

これはヘム鉄自体の作用と、動物性食品を多くとりすぎることによる脂質・タンパク質過剰の影響等も関連していると考えられます。

 

やはりヘム鉄だけでなく非ヘム鉄も意識して摂取することが大切で、何より3-1食事のバランス」でお伝えしたバランスの良い食事を心がけるだけで、自然とヘム鉄・非ヘム鉄の両方を摂取できます。

 

出典:Kaluza J, Wolk A, Larsson SC. Heme iron intake and risk of stroke: a prospective study of men. Stroke. 2013 Feb;44(2):334-9.

 

その他重要栄養素について

ビタミンB12と葉酸は、巨赤芽球性貧血の予防に重要な栄養素です。

ここではその二つの栄養素について説明します。

ビタミンB12

ビタミンB12は動物性食品に含まれ、胃液やペプシンによって消化され、胃の内因子との結合によって小腸で吸収されます。

ビタミンB12は食事1回あたりの飽和量が約2.0μgと推定されるため、毎回の食事で動物性食品を取り入れることが大切です。

 

令和元年の国民健康・栄養調査では、成人男性・女性ともに摂取推奨量を上回って摂取していることが示されています。

 

しかし、ビタミンB12を吸収するために必要な内因子は胃で産生されるため、胃腸機能が弱っていたり、胃切除後や萎縮性胃炎があるとビタミンB12の吸収が困難になります。

また、動物性食品にのみ含まれるため菜食主義の人は不足しやすく、サプリメントや朝食用シリアルに添加されているもので補ったりしているケースが多いです。

 

ビタミンB12の食事摂取基準は以下の通りです。

  • 成人男性・女性・・・2.4μg/日
  • 妊娠中の女性・・・2.8μg/日
  • 授乳中の女性・・・3.2μg/日

 

出典:令和元年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省

   日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

 

各食材のビタミンB12含有量に関しては以下を参考にしてください。

ビタミンB12は動物性食品の中でも特に魚に多く含まれます。

肉類の中では牛肉に多く含まれますが、魚ほどではありません。

毎食、動物性食品を取り入れるように指導しましょう。

 

葉酸

葉酸はDNAやRNAの合成に関係しているため、細胞の増殖と深い関係にあります。

食品に含まれる葉酸塩『食事性葉酸』と、サプリメント等に含まれる吸収率の高い『狭義の葉酸』に分かれます。

食事性葉酸は胃の中(胃酸環境下)や小腸内でタンパク質から遊離、ほとんどが腸内の酵素によって消化され小腸から吸収されます。

 

令和元年の国民健康栄養調査では、成人男性・女性ともに摂取量は推奨量よりやや不足していることが示されています。

 

加えて、妊娠中の女性と授乳中の女性は必要量が増すこと、また妊娠を望む女性や妊娠初期の女性は胎児の神経管閉鎖障害の予防のために、サプリメント等から狭義の葉酸を摂取することが推奨されています。

 

葉酸の食事摂取基準は以下の通りです。

  • 成人男性・女性・・・240μg/日
  • 妊娠中の女性・・・480μg/日
  • 授乳中の女性・・・340μg/日
  • 妊娠を望む女性・・・400μg/日(狭義の葉酸から摂取)

 

出典:令和元年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省

   日本人の食事摂取基準 |厚生労働省

 

各食材の葉酸含有量に関しては以下を参考にしてください。

葉酸はほうれん草、ブロッコリー、小松菜などの緑の野菜に特に多く、その他の野菜や果物にも多く含まれますが、肉・魚・乳製品等にはそれほど含まれていません。

妊娠中や授乳中の女性は以下のように工夫してできるだけ食品から葉酸を摂取できるように指導したいですね。

  • 毎食、緑の野菜を摂取する
  • 間食で果物を食べる

 

栄養素の吸収促進・阻害について

貧血の栄養指導では栄養素の摂取だけでなく、以下のように鉄の吸収を促進または阻害する成分や、胃酸の分泌を促進させて鉄やビタミンB12の吸収を高めることについても指導されることが多いです。

 

【鉄の吸収促進】

  • ビタミンC
  • 動物性タンパク質 など

 

【鉄の吸収阻害】

  • 抗栄養素(ポリフェノール等)
  • フィチン酸塩
  • カルシウム
  • タンパク質

 

【胃酸の分泌を促進】

  • 酸味のあるもの
  • 香辛料

 

これらは確かに鉄の吸収を促進または阻害等に関連しますが、実際の食事では鉄の入った食材とこれらの成分だけを摂取するわけではありません。

 

そして、栄養指導ではいろいろな食材をバランスよく組み合わせて食べるように指導するので、これらの成分の影響は実際はそこまで大きくないと考えられます。

吸収を阻害する成分も過剰摂取をしなければさほど問題ではないでしょう。

 

また、患者・対象者は栄養に関する知識がない上にこれらの成分を積極的に摂取または避けるように言われても負担の方が大きく感じてしまうことにもなりかねません。

 

胃酸の分泌を促進する食べ物も、確かに胃腸機能が弱まっている時には有効ですが、これも根本の胃腸機能を向上させることにフォーカスしましょう。

 

何よりも大切なのは、定食の形を目指した食事で栄養素を過不足なく摂取できるようになることなので、これらの成分等についての優先度はそこまで高くないと言えます。

 

栄養指導の注意点

食事管理の資格を選ぶ上で注意すべきポイント

貧血の栄養指導を効果的なものにするためには、まず患者・対象者の話をよく聞いて相手を知ることが大切です。

また、ライフステージごとに起こりやすい問題にも留意し、食事改善は焦らないことも大切です。

ここではそれらの注意点についてお話ししますので、よろしければ参考にしてください。

 

ヒアリングを軽視しない

1章貧血の栄養指導のポイントで触れたように、貧血の栄養指導では症状の裏側の根本原因にアプローチするために、情報収集はとても重要です。

 

そして栄養指導を患者・対象者一人一人に合ったものにするためにも、情報収集を軽んじることはできません。

患者・対象者の生活習慣を把握できていなければ、その人に合わせた目標や食事プランを作成することは難しく、栄養指導が一般的な内容中心になってしまう恐れがあるためです。

 

患者・対象者一人一人に即した内容でなければ、本人が取り組む意欲が湧きにくく、さらにそれを継続することはもっと難しくなります。

 

また、患者や対象者との対話の中でその人の性格やアプローチしやすそうなポイントも垣間見えてくることでしょう。

場合によっては対話の中で患者・対象者本人が普段の食事や生活習慣を客観視するきっかけになり、本人たちの気付きにつながるかもしれません。

 

詳細な情報収集にはどうしても時間がかかりますが、栄養指導は時間が限られていますので、以下のような工夫をして、時間を有効活用できるようにしてください。

  • 栄養指導の予定が組まれた時点で、医師や看護師等を通じて質問用紙を渡しておく
  • 栄養指導までに質問用紙に記入を済ませて当日持参してもらう
  • 可能であれば郵送・メールなどで事前に質問用紙を返送してもらう

 

性別やライフステージに注意する

鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血では、鉄・ビタミンB12・葉酸等の必要量が増えることも原因の一つです。

 

子どもであれば成長にともなって必要量は変動しますし、女性の場合は月経の有無や妊娠・授乳期によって必要量は変動します。

そして高齢者では胃腸の機能が衰えることから、栄養素の吸収が難しくなってきます。

 

例えば授乳中の母親と正期産児の乳児では、鉄貯蔵等により生後4ヶ月の間に子どもの全身の鉄分にほとんど変化はないと言われています。

 

しかし乳児期後期に鉄の必要量は著しく増加するため、生後4〜12ヶ月の期間は乳児が鉄欠乏に陥るリスクが高くなります。

そのため授乳期の母親は子どもに与える分も加味して栄養を摂取しなければなりません。

これはもちろん乳児の飲む量によっても変わるので、母親の情報だけでなく子どもの情報も合わせて確認しましょう。

 

出典:Bothwell TH, Charlton RW. Iron deficiency in women. The Nutrition Foundation, Washington D. C., 1981: 7─9. 

 

このようにライフステージごとの特性を踏まえて、栄養指導に気を配る必要がありますね。

 

食事の改善は一気に進めない

長年の食生活をガラリと変えてしまうと、身体は急な変化には対応できないので、新たな不調を起こすことにもなりかねません。

 

現在の食事と理想の食事に大きな違いがあるときは、耐糖能や胃腸機能を考慮して少しずつその違いを縮めていく必要があります。

 

例えば以下のように、体調の変化に気をつけながら取り組むよう指導します。

  • カロリーアップが必要な場合は1週間で100〜200kcalずつ増やす
  • PFCバランスを改善する場合は5%ずつ変更する

 

また、今まで摂取カロリーが少なかった方には一回量が食べられない方もいるので、その場合は補食も上手く取り入れるなどして、カロリーや栄養素を充足できるように工夫が必要です。

 

これらを踏まえて患者・対象者本人が一歩ずつ確実に歩んで行けるような目標設定と食事のアドバイスをしましょう

 

ここまで貧血の栄養指導について見てきましたが、貧血は原因もさまざまで複雑だと思いませんか?

栄養指導ができる専門資格を持っていても、貧血の栄養指導となると学び直しが必要になるほど奥が深いですね。

この記事を書いている臨床栄養医学協会では、栄養学を科学的根拠に基づいた圧倒的な知識量で学ぶことができます。

管理栄養士や看護師・保健師などさまざまな専門家にも選ばれている講座です。

根拠を持って、一人一人に合った栄養指導ができるようになりたい人はぜひ当協会を検討してみてください!

参考: 臨床栄養医学協会

 

おすすめのレシピ

栄養士になるためには最短でも2年かかる

貧血の栄養指導では、食事のとり方や栄養素に関してだけでなく、実際にどんな食事が良いかの例を示すことも必要になってきます。

ここでは食事の提案に使えそうなレシピを、作り置き可能なものを中心にご紹介します。

※栄養計算はカロリーSlismにて、それぞれのレシピを2分割した分量(1人分)で行っています。

小松菜のツナ和え 

【カロリーと三大栄養素】

  • カロリー  74kcal
  • タンパク質  9.9g
  • 脂質     2.8g
  • 炭水化物   3.6g

 

【ビタミン・ミネラル】

  •       3.6mg
  • ビタミンB12  0.6μg
  • 葉酸     119.3μg

 

【メモ】

  • ツナから鉄分・ビタミンB12、小松菜から鉄分と葉酸が摂取できる
  • オリジナルレシピは油漬けツナ缶を使用していると思われるが、脂質を抑えるために水煮缶も検討(栄養計算は水煮缶で実施)

参考:小松菜のツナ和え~貧血予防に|クックパッド

 

あさりとほうれん草の味噌汁

【カロリーと三大栄養素】

  • カロリー   39kcal
  • タンパク質  2.9g
  • 脂質     0.6g
  • 炭水化物   6.7g

 

【ビタミン・ミネラル】

  •       1.5mg
  • ビタミンB12  6.7μg
  • 葉酸     102μg

 

【メモ】

  • あさりから鉄とビタミンB12、ほうれん草から鉄と葉酸が摂取できる
  • あさりをしじみに変更するとさらに鉄分・ビタミンB12アップ

参考:貧血予防に♡アサリとほうれん草の味噌汁|クックパッド

 

オートミールのホットケーキ

【カロリーと三大栄養素】

  • カロリー  514kcal
  • タンパク質 16.6g
  • 脂質     9.6g
  • 炭水化物   93.5g

 

【ビタミン・ミネラル】

  •       1.8mg
  • ビタミンB12  0.6μg
  • 葉酸     47.6μg

 

【メモ】

  • プレーンなホットケーキに比べ、鉄分・葉酸が摂取できる
  • 腹部症状がなければ、小麦粉を減らしてオートミールを増やすと葉酸・鉄ともに量は増える
  • 牛乳を豆乳に置き換えると、ビタミンB12は減るものの、葉酸・鉄の量は増える

参考:栄養たっぷりオートミール入りホットケーキ|クックパッド

 

まとめ

まとめ

この記事では、貧血を持つ患者・対象者への栄養指導で意識しておきたいポイントや、実際の食事アドバイスで使える情報、注意点をお伝えしてきました。

 

貧血の裏には、消化能力低下や腸内環境悪化などの要因もあるため、鉄分やビタミンを摂取するだけでは根本的に解決しないことがあることもお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

貧血の治療は薬物療法をしながらも、栄養指導による食生活改善でこういった根本改善や再発予防をすることが大切です。

 

鉄分やビタミンを補う栄養指導だけでなく、患者・対象者の全体像を把握して、消化能力向上や腸内環境改善など、貧血の根本原因にアプローチできる栄養指導を目指していきたいですね。

 

この記事が、患者・対象者一人一人を的確にアセスメントし、その人に合った栄養指導をする助けになれば幸いです。

一般社団法人臨床栄養医学協会

執筆者一般社団法人臨床栄養医学協会
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