鉄欠乏性貧血の栄養指導といえば「鉄の補充」と思う方は多いのではないでしょうか。
確かに、不足した鉄を補う必要はありますね。
しかし、鉄だけを取っていれば良いのでしょうか?
鉄不足を気にするだけで良いのでしょうか?
鉄欠乏性貧血の栄養指導では鉄の摂取が優先されますが、実はただ鉄を取るだけでは根本改善にはならないのです。
「鉄補充以外なら、鉄と一緒にビタミンCを摂取したり、酸味のあるもので胃酸分泌を促して鉄の消化を助ける食べ合わせの指導をすればいいのでは?」
と思われたかもしれません。
確かに多くの栄養指導で食べ合わせも指導されていますね。
でも、あなたは目の前の患者・対象者がなぜ鉄欠乏性貧血に陥っているのか、説明できますか?
もしかしたら腸内環境悪化により鉄の吸収が困難になっていたり、月経過多で鉄の喪失量が多いのかもしれません。
その場合、鉄を補充しながらも腸内環境やホルモンバランスを整えるような、原因そのものに働きかける栄養指導が求められます。
症状の裏に隠された背景まで深ぼって、何が鉄欠乏を起こしているのか見極めなければなりません。
この記事では、鉄欠乏性貧血の栄養指導について紐解いていきます。
最後まで読むことできっと鉄欠乏性貧血への栄養指導が、鉄補充から一歩踏み込んだものになるでしょう。
ぜひこの記事を参考にして、明日からの栄養指導に役立ててください。
鉄欠乏性貧血の栄養指導の内容
鉄欠乏性貧血の栄養指導では、不足した鉄を補うだけでなく鉄欠乏を来たしている根本原因にも働きかける必要があります。
問診で患者・対象者の食事や生活習慣から貧血につながりうる要因を洗い出し、食事や習慣改善でアプローチできる方法を考えましょう。
貧血の自覚症状が乏しい場合でも、推奨エネルギー量・栄養素量と実際の食事との相違点を示し、行動変容の必要性に気づいてもらえるように関わりたいですね。
ここでは貧血の中でも、鉄欠乏性貧血に特化した栄養指導の内容を具体的に紹介します。
貧血の栄養指導のポイントや流れは、当協会の以下の記事で詳しく解説していますのでそちらもぜひ参考にしてください。
適切なエネルギー量
鉄が不足している人は、摂取カロリー不足や他の栄養素不足も同時に抱えていることが多いです。
私たちの身体の中では、さまざまな栄養素が深く関係し合って身体を支えています。
鉄というひとつの栄養素だけではなく、どの栄養素が欠乏してもいけないのです。
そもそもエネルギー不足や栄養不足の状態では、鉄自体も本来の働きをすることができなくなってしまいます。
そのため、まずは摂取カロリーを適正化することが大切です。
推定エネルギー必要量は以下の通りです。
※詳細な必要エネルギー量は、年齢・性別・活動レベル・身長・体重等によって異なるため、患者・対象者ごとに算出しましょう。
- 成人男性(活動レベルⅡ)・・2,600〜2,700kcal/日
- 成人女性(活動レベルⅡ)・・1,950〜2,050kcal/日
必要カロリーを充足させるためには、以下に注意することも併せて伝えたいですね。
- 欠食せずに3食を規則正しく摂取すること
- 食間が空く時や一回量が食べられない時は補食も取り入れること
- 摂取カロリーを増加させる場合は100kcal/週程度ずつ緩やかに取り組むこと(体調の変化に注意)
バランスの整った食事
摂取カロリーを適正化することに次いで大切なのは、食事バランスを整えることです。
まずは三大栄養素であるタンパク質・脂質・炭水化物のバランス(PFCバランス)を適正化させます。
特に脂質過剰やタンパク質過剰では腸内環境の悪化により消化吸収機能にも影響が出ますし、エネルギー代謝障害によりエネルギーが上手く作り出せなくなってしまいます。
これらはあくまでも一例ですが、PFCバランスの乱れは身体の不調に直結するので、PFCバランス適正化を目指す栄養指導に取り組みましょう。
目標とするPFCバランス(%エネルギー)は以下の通りです。
※PFCバランス(%エネルギー):摂取エネルギー量に対するタンパク質・脂質・炭水化物の割合
- たんぱく質・・・13〜20%
- 脂質・・・20〜30%
- 炭水化物・・・50〜65%
このPFCバランスを整えるためには、定食に近いかたちを意識することが有効です。
定食系の食事は自然とPFCバランスも整いやすく、ビタミン・ミネラルも充足しやすくなるため、ぜひ患者・対象者に提案してみましょう。
定食に近いというのは以下のような食事で、一汁三菜プラス果物や乳製品といった内容です。
- ご飯 or パン
- 主食もう一品(芋系、南瓜、オートミール、とうもろこし、栗など)
- おかず(⾁、⿂、⼤⾖、卵など)
- サラダ(野菜、きのこ、海藻類など)
- 味噌汁(味噌、海藻類など)
- 果物(旬の果物)
- 乳製品(チーズ、⽜乳、ヨーグルトなど)
ポイントは主食をご飯・パン以外にもう一品付けることで炭水化物量を充足し、果物や乳製品も付けることで、不足しがちなビタミンなどの栄養素を摂取できるようになることです。
食べ方
一般的な鉄欠乏性貧血の栄養指導では、以下のように鉄の吸収を良くするために胃酸分泌を促進することも併せて指導されます。
- 良く噛んでゆっくり食べること
- 酸味のある食材を取り入れること
確かに消化吸収能力が低下している場合は、その改善が見られるまでは上記のような助言もしてもいいでしょう。
よく噛んでゆっくり食べることは消化の助けになりますし、血糖値急上昇を防ぐ効果も期待できます。
しかし、これも胃酸分泌が低下している要因(消化吸収能力の低下)を改善することが大切です。
胃腸を含め身体の臓器はエネルギーによって動いています。
摂取カロリーや栄養不足ではエネルギー不足により消化機能にも影響が出ますし、腸内環境も悪化しやすいです。
鉄の吸収を良くすることだけに焦点を当てるのではなく、身体の機能を底上げできるように栄養面から導いていきたいですね。
調理のポイント
鉄の推奨摂取量を満たすためには、鉄製の調理器具の使用も検討しましょう。
特に妊娠期や過多月経のある女性など、必要摂取量が多い場合には食材だけで鉄分を補うのは難しいケースもあります。
そんな時に鉄製の調理器具(鍋・フライパンなど)を使えば、調理中に鉄が溶け出るので鉄分摂取の助けになります。
患者・対象者にとっても調理器具を変えるだけで鉄分摂取量が増やせるというのは大きなポイントになるのではないでしょうか。
注意点としては、調理中に溶け出る鉄の量は調理する食材や調味料により異なり、特に酸性の強いものや塩分濃度の高いものは鉄が溶け出しやすいことです。
また、料理を鉄鍋に長時間放置することも鉄が多く溶け出す要因になります。
後述するように鉄の過剰摂取は避けたいので、全ての調理を鉄鍋でしたり、鉄鍋に料理を放置しないなど注意しながら取り入れるように伝えてください。
出典:今野 暁子ほか. 調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化. 日本調理科学会誌 36(1) 2003.2,p.39~44.
そもそも鉄欠乏性貧血とは
貧血の約7割はこの鉄欠乏性貧血とも言われており、栄養指導の現場でも目にすることが多いでしょう。
鉄欠乏性貧血の栄養指導をする際には、症状やその原因について理解しておくことが大切です。
患者・対象者に食事や生活習慣と貧血症状の繋がりを理解してもらえるように説明する必要があるためです。
また、鉄欠乏性貧血の原因は一人ひとり異なるため、それぞれの背景を的確に捉えられるように基礎知識として持っておく必要があります。
個別的な栄養指導をする鍵とも言えますので、ここで詳しく解説します。
定義・症状
貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態のことを指します。
血液検査ではヘモグロビン濃度や赤血球数、ヘマトクリット値などが参考にされます。
※貧血は種類が多いため、さまざまな数値が総合的に判断されることが理想です。
鉄はヘモグロビンを構成する重要な成分なので、鉄が不足するとヘモグロビンが作り出せずに鉄欠乏性貧血が起こります。
ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ乗り物のような働きをしているため、ヘモグロビン濃度が低下すると全身に酸素が上手く行き渡らなくなってしまいます。
そのため症状は身体が酸欠状態になっている表れとして、息切れ・動悸・頭痛・めまい・立ちくらみ・易疲労感・爪が割れやすい・舌の炎症・氷食症・脱毛・肌荒れ・倦怠感・怒りやすいなどがあります。
その中でも鉄欠乏性貧血に特有な症状は、以下のものが挙げられます。
これらは身体の各組織で鉄が不足することによると考えられます。
- 舌の炎症や口角炎
- 氷食症
- 爪の変形・爪が割れやすい
- 食べ物が飲み込みにくい
- むずむず脚症候群
ただし、貧血の症状は緩やかに出現することもあり、患者・対象者本人が貧血症状に気づいていないことも多々あります。
治療や食生活改善により貧血が改善して初めて自身が体調不良だったとわかることもあるようです。
原因
実際の栄養指導では、鉄欠乏性貧血が何によって引き起こされているのか、原因を見極めることが大切です。
そもそも全体の食事量が足りなかったり、PFCバランス不良による栄養素不足が大きく関わっているのですが、鉄不足も大きな要因になります。
根本改善へと導く栄養指導にするために、ここでは鉄不足の原因について詳しく見ていきます。
鉄欠乏性貧血は、鉄の需要と供給のバランスが崩れた状態で生じますが、その原因は以下の4つです。
- ①鉄の摂取量不足
- ②鉄の必要量増加
- ③鉄の吸収困難
- ④鉄の喪失増加
患者・対象者によって、①〜④の何をきっかけに鉄欠乏性貧血が起こっているのかを見極め、鉄を補充しながらそれぞれに対処することが求められます。
①鉄の摂取量不足
背景:
欠食や偏食などの食生活の乱れにより、鉄の摂取量が不足しているため、鉄欠乏をきたします。
治療として鉄剤投与で鉄の摂取量を増やしても、鉄剤をやめたら再発する可能性があります。
また、鉄不足があると言うことは、全体のカロリー不足や他の栄養不足も抱えていることが多いです。
対処:
必要エネルギー量や栄養素についての正しい知識をつけて食生活を見直す指導を行い、エネルギーや栄養素の過不足が無いような食事をできるように指導しましょう。
②鉄の必要量増加
背景:
月経のある女性、妊娠・授乳期の女性、乳幼児や成長期の子どもなどは鉄の必要量が増加することで鉄の需要と供給のバランスが崩れ鉄欠乏をきたします。
また鉄の必要量が増加している時は、全体のカロリーや他の栄養素の必要量増加も考えられるので、鉄だけでなく総合的な栄養評価をする必要があります。
対処:
鉄の必要量が増加している状態であることを伝え、その増加量に見合った積極的な鉄の摂取ができるように指導する必要があります。
また、その他の栄養素と全体のカロリーの必要量も増加している状態では、それらも合わせて指導しましょう。
月経のある女性の場合は将来、妊娠・出産・子育てをする場合でも鉄の需要が増大するステージがあるので、早い段階から鉄分摂取の知識をつけておくことが将来につながります。
③鉄の吸収困難
背景:
消化能力低下や腸内環境悪化など、胃腸機能が低下して鉄が上手く吸収できずに鉄欠乏をきたします。
萎縮性胃炎などの疾患が背景にあることもあります。
また、鉄以外の栄養素やエネルギーも上手く吸収されていない可能性が高いです。
対処:
鉄剤投与等で鉄の摂取量を増やしたところで、それが吸収できていなければ鉄欠乏は是正されません。
消化能力低下や腸内環境悪化のサイン・症状はないか問診でアセスメントする必要があります。
鉄分を補充するとともに、胃腸機能を改善する栄養指導が求められます。
萎縮性胃炎などの疾患がある場合はその治療も必要なので、医師と連携しましょう。
④鉄の喪失増加
背景:
月経過多や婦人科系疾患(子宮内膜症・筋腫など)を抱える女性、消化器系疾患(潰瘍・痔など)や癌などを持つ人は慢性出血により鉄の喪失が増加するため、鉄欠乏をきたします。
対処:
どんどん出ていく鉄を補いながらも、出血源にアプローチしなければ鉄の需要と供給のアンバランスは改善されません。
貧血の背景に婦人科系疾患や消化器系疾患、癌などが無いか確かめるために検査を促したり、適切な治療に繋げるため医師と連携しましょう。
月経過多の要因の一つであるホルモンバランスの乱れは、栄養面での改善が期待できることもあります。
鉄について
ここまで鉄欠乏性貧血の栄養指導の内容やその原因などについて見てきました。
鉄欠乏性貧血の治療では、鉄を補充しながらも鉄欠乏が起こる原因そのものに迫る栄養指導が必要であることがお分かりいただけたと思います。
この章では治療や予防において、鉄を補充する際に知っておきたい鉄について詳しく見ていきます。
消化・吸収
食品に含まれる鉄は十二指腸から空腸上部において腸管上皮細胞を経て血液中に取り込まれます。
一部の鉄は肝臓で貯蔵されたりDNA合成のために使われますが、6〜7割の鉄は赤血球を作るために利用されます。
赤血球の寿命は120日程度ですが、壊された赤血球から取り出された鉄は再利用されます。
体外への鉄の排出はごく僅かで、通常はそれを補う分だけの鉄の吸収が行われています。
鉄の吸収率はあまり良くないことが知られており、食事摂取基準でも15%に設定されています。
しかし、身体の状態や食事内容によって吸収率は変わることがわかっています。
推奨量
鉄の摂取量に過不足がないか判断したり、鉄を適切に補充するためには、鉄の推奨摂取量は必ず必要になるデータです。
以下に鉄の食事摂取基準の表を載せています。
また、各年代ごとの特徴にも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
乳児期・幼児期
満期産で生まれた新生児は、生後4〜6ヶ月までは鉄貯蔵などにより鉄欠乏から守られているものの、6〜12ヶ月ごろには鉄欠乏を来しやすいことが指摘されています。
また、早期産児や低出生体重児では鉄貯蔵が不十分なため鉄欠乏を来しやすいです。
鉄は成長発達にも不可欠な栄養素であり、不足すると成長障害につながりかねないと言われています。
国民健康・栄養調査を見ると推奨値を満たせていないことがわかります。
児童期・青年期
成長期は身体が大きくなるために鉄の必要量も増加します。
特に思春期は身体も大きくなり、女子は月経が始まります。
しかし、国民健康・栄養調査を見ると推奨値を満たせていないことがわかります。
中高生は偏食や過度なダイエットに陥る子どももおり、栄養状態が懸念されます。
この年代で食事に関する知識を付けることは大人になってからの生活を支えてくれるので、栄養指導には最適な時期かもしれません。
成人期
女性は月経の有無によって推奨量が変わります。
通常、鉄の喪失量は約1.0mg/日とされていますが、月経のある女性は平均的な出血量の人でプラス0.5mg/日喪失していると言われています。
月経により貧血になりやすいことは知っている方が多いかもしれませんが、通常の1.5倍の鉄を失っている状態とは知らないかもしれません。
また、月経血量の多い人は推奨値にさらに多くの鉄の摂取が必要とも言われています。
男性でも女性でも、仕事や家事・育児が多忙など、食生活の乱れが起こりやすい年代です。
高齢期
食欲の低下や消化吸収機能の衰えにより、低栄養状態であったり鉄不足となることがあります。
癌や消化管出血に起因する貧血も多いようです。
持病を持つ人も多く、血栓症予防薬の内服による消化管出血など、薬剤使用による出血もあり得ます。
また、赤血球を作る機能自体にも衰えが出る時期です。
妊娠期・授乳期
妊娠期は循環血液量の増加や胎児の発育のために鉄の需要量が増加します。
もちろん鉄だけでなく必要カロリー量やその他の栄養素も需要が増大する時期です。
妊娠中はつわりや胎児の成長に伴う腹部の圧迫、出産後は出産による疲労や育児疲労などにより、食事量が確保出来ないことも考えられます。
ヘム鉄と非ヘム鉄
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、以下のような特徴があります。
- ヘム鉄・・動物性食品に含まれ、吸収率が良い(吸収率:15~50%)
- 非ヘム鉄・・植物性食品に多く含まれ、吸収率が悪い(吸収率:3~10%)
一般の栄養指導では、吸収率の良いヘム鉄を含む動物性食品の摂取をすすめられることが多いです。
しかし、ヘム鉄を積極的に摂取するとヘム鉄摂取増加や動物性食品の摂り過ぎに繋がりかねず、心疾患等のリスクも増加することに注意しなければなりません。
また、私たち日本人は昔から穀物などの植物性食品を中心に摂取してきました。
吸収率が悪いと言われる非ヘム鉄でも、鉄欠乏状態など体の状態によっては吸収率が40〜66%ほどまで上昇することも分かっています。
以上のことから、現代の栄養指導でも穀物・野菜類から積極的に非ヘム鉄も摂取することを指導したいですね。
含有量の多い食品
鉄欠乏性貧血の栄養指導では食事から鉄を摂取できるようにアドバイスします。
以下に各食材に含まれる鉄の含有量を示します。
鉄が多いものにはよく言われるレバーや赤身肉以外にも、ほうれん草やちんげん菜などの野菜、玄米やオートミールなどの穀物、豆類などがあります。
非ヘム鉄を中心に、ヘム鉄もバランスよく摂取できるように指導しましょう。
食べ合わせ
鉄欠乏性貧血の栄養指導では、以下のように鉄の吸収を促進または阻害する食材やその食べ合わせにも言及されることがあります。
【鉄の吸収を促進するもの】
- アスコルビン酸
- 動物性タンパク質
【鉄の吸収を阻害するもの】
- フィチン酸塩
- ポリフェノール
- カルシウム
- タンパク質
これらは確かに鉄の吸収に影響しますが、日々の食事ではこれらの成分等と鉄だけを摂取するわけではありません。
あまり気にし過ぎずに、全体の食事バランスを重視する方が良いでしょう。
鉄欠乏性貧血の栄養指導で注意すること
ここでは鉄欠乏性貧血に対する栄養指導で注意するべきこと3つについてお話しします。
医師の診断・指導に従うこと、栄養アセスメントに重点をおくこと、鉄の過剰摂取についてです。
それぞれについて見ていきましょう。
医師の診断を仰ぐ
貧血は種類が多く、その分類や診断は医師のみができるものです。
貧血の裏には癌や出血性疾患などが存在する可能性もあるので、まずは医師の診断を仰ぐように患者・対象者に伝えましょう。
また鉄欠乏性貧血の治療には鉄剤投与がありますが、鉄は人体に必要不可欠な物質でありながら、過剰状態では毒にもなりかねます。
適正量の鉄を投与するためにも、医師に投与量を判断してもらう必要があります。
原因疾患がある場合は医師のもとで治療をしつつ、必要であれば食事面からも療養をサポートできるように医師と連携しましょう。
患者・対象者にとっても、医師と栄養の専門家が協力して療養をサポートしていることが分かれば安心感や信頼感に繋がり、食事や生活習慣改善に前向きに取り組めることが期待できます。
栄養アセスメントに注力する
栄養アセスメントとは、問診で聞き取った情報を分析・評価することです。
ここまで触れたように、鉄欠乏性貧血の栄養指導ではその原因自体にアプローチすることが求められます。
そしてそれは栄養アセスメントにかかっていると言っても過言ではないくらいです。
栄養指導では栄養の専門家として、医師とは違う視点で情報収集が可能です。
食事や栄養面の情報収集だけでなく、生活習慣や生活の背景も合わせて出来るだけ詳細に、かつ包括的に聞き取りを行いましょう。
深く情報を聞き取ることができたら、何かしらその人が抱える課題が見えてきます。
生活習慣などを詳しく把握することで、今までの生活を180度変えるような無理な改善方法ではなく、無理なく始めて継続出来るような方法を提案できるでしょう。
初めに紹介した当協会の貧血の栄養指導の記事では、栄養アセスメントについて詳しく触れていますので、気になる方は是非読んでみてください。
鉄の過剰摂取に注意
鉄は赤血球産生など身体に無くてはならない栄養素ですが、その摂取量には注意が必要です。
鉄は過剰になると酸化促進剤として活性酸素をつくる化学反応を手助けするからです。
中でも、細胞障害を引き起こす毒性の強いヒドロオキシラジカルを発生させることが分かっています。
また、高容量の鉄を摂取すると心臓や肝臓に損傷を起こすような重篤な鉄過剰症もあります。
鉄は医師の処方箋がなくても手軽にサプリメントでも摂取することができますが、医師の判断なしに安易に使用するべきではないでしょう。
問診時には鉄のサプリメントの使用有無を確認したり、鉄剤投与されている人では副作用がないかなど、適量摂取出来ているか確認するように意識しましょう。
鉄剤の副作用としては胃腸障害(胃痛、嘔気、下痢、便秘)があります。
このように鉄欠乏性貧血の栄養指導では、鉄を補充することがメインではなく、一人一人の状態を的確にアセスメントしてその人に合った食事・生活習慣の改善について考えていかなければなりません。
それは栄養の知識を身につけているだけでは難しいところもあります。
この記事を書いている臨床栄養医学協会の講座では、栄養学を学ぶだけでなく、アセスメント力を育て、いかに一人一人に合った栄養指導をするかも学べるようになっています。
管理栄養士や看護師・保健師など専門職にも選ばれている実績のある講座内容です。
最短距離でこれらを身につけたい方には、ぜひ当協会をおすすめします。
参考:臨床栄養医学協会
鉄分補給におすすめのレシピ
ここでは栄養指導の際に提案できそうな鉄分摂取のできるレシピを3つご紹介します。
いずれもアレンジが出来たり、飽きがこないものなので作り置きもできますし、患者・対象者の方にも取り入れてもらいやすいのではないでしょうか?
よろしければ参考にしてください。
※カロリーや栄養素はカロリーSlismにて、それぞれのレシピの1食分を栄養計算しています。
鉄分たっぷり!ひじきと枝豆の炒り豆腐|クックパッド
【カロリーと三大栄養素・鉄の量】
- カロリー 127kcal
- タンパク質 9.7g
- 脂質 5.8g
- 炭水化物 10.8g
- 鉄 3.1mg
【メモ】
- ごま油は適量となっていますが、脂質を抑えるために炒めるより水分を飛ばしながら煮ることを推奨します。
- 家庭にある食材(こんにゃくやキノコ等)を加えたりしてアレンジも可能です。
ほうれんそうと卵のスープ|クックパッド
【カロリーと三大栄養素・鉄の量】
- カロリー 50kcal
- タンパク質 3.3g
- 脂質 1.6g
- 炭水化物 7.0g
- 鉄 1.0mg
【メモ】
- ほうれん草は鉄分が豊富なうえ、各種ビタミンなど他の栄養素もよく含まれています。
- ほうれん草はおひたしだけでなく、スープなど活用範囲も広いのでぜひ活用を指導したい野菜です。
ひじきとあさりの炊き込みご飯|クックパッド
【カロリーと三大栄養素・鉄の量】
- カロリー 226kcal
- タンパク質 4.6g
- 脂質 0.6g
- 炭水化物 50.8g
- 鉄 1.8mg
【メモ】
- あさり缶を使用し、作りやすいレシピになっています。
- きのこなど家庭にある食材を加えてアレンジも可能です。
まとめ
ここまで鉄欠乏性貧血の栄養指導について、鉄補充をしながらも根本原因に迫る必要性や栄養指導の内容、注意点などについてお話ししてきました。
鉄欠乏性貧血では、鉄を補充しただけでは根本改善に至らないケースは多々あります。
そもそも摂取カロリーは充足しているのか、食事バランスはどうか、消化吸収は出来ているのかなど全体像を把握して鉄欠乏性貧血にアプローチしていきましょう。
この記事が、今までの栄養指導をさらに充実させ、個別性のある内容で患者・対象者の行動変容を起こすような栄養指導の助けになれば幸いです。
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