立ちくらみのある方への栄養指導では、何を具体的にアドバイスすれば良いか悩むこともあるのではないでしょうか。
一般的に立ちくらみに対しては「まずは鉄を補充」というアプローチの印象ですが、もっと根本的な原因を見極め、一人一人に合わせた改善の方法を提案する真の栄養指導を実践したいですよね。
特に女性では鉄欠乏性貧血で立ちくらみ症状を訴える方が多いので、貧血を改善・予防する栄養指導となることが多いかもしれません。
他にも立ちくらみの原因はさまざまで、よく言われるのは自律神経の乱れから来るものです。
そうなると自律神経を整える栄養指導、ということになります。
しかし栄養指導で大切なのは、立ちくらみの背景が貧血であっても自律神経の乱れであっても、その人の現状を知り、何が貧血や自律神経の乱れ等を起こしているのかを見極めることです。
そこでこの記事では、立ちくらみのある方への問診の内容から食生活上の課題にアプローチする方法まで詳しく解説しています。
最後まで読むと、立ちくらみに対する個別性のある栄養指導ができるようになると思いますので、ぜひ参考にしてください。
目次
立ちくらみに対する栄養指導とは
立ちくらみに対する栄養指導は、対象者の生活背景に合わせた個別性のある内容にすることが大切です。
立ちくらみという症状は一緒でも、人によって食事内容や生活習慣などの生活背景は異なり、何が立ちくらみを引き起こしているかは人それぞれだからです。
そのため問診で対象者の生活背景を把握し、栄養面や食生活で改善できることはないか探ることが鍵になります。
以下のような項目を、できる限り詳しく聞き出すようにしましょう。
基本情報 | 年齢・性別・身長・体重など |
生活のこと | 職業・活動レベル・生活習慣(就業時間や睡眠時間)など |
食事のこと | 食事内容・食習慣(食事回数や時間)など |
立ちくらみのこと | いつから、立ちくらみが起こるタイミングや状況など |
その他の症状 | 貧血症状や消化器症状など |
病歴・治療歴 | 今までの病歴や現在服用中の薬など |
このように対象の方の情報を網羅的に聞き取ることで、食事や生活習慣の課題点を見極めていきます。
そして一般的な栄養指導に良くある「立ちくらみを引き起こすのは貧血だから、その改善のために鉄やビタミンの摂取を促す」などの指導ではなく、個人の問題点に働きかけるような栄養指導を目指します。
また深く問診することは、対象者自身も自らの生活を振り返る機会となるでしょう。
食習慣や食事を改善するためには対象者が意欲的に取り組むことが大切なので、問診時点で対象者自身が気づきを得られることはとても有意義なものになります。
立ちくらみの栄養指導は問診にかかっていると言っても過言ではないくらいですね。
そもそも立ちくらみはなぜ起こる?
それでは、実際の立ちくらみの栄養指導の内容等をみていきます。
まずは立ちくらみを起こす原因について整理しておきましょう。
原因を知ることで問診やアセスメントがよりクリアになると思うので、よく読んでくださいね。
立ちくらみの原因は貧血?
貧血があると立ちくらみが起こる、ということは知っている方も多いでしょう。
貧血では全身に酸素を送る赤血球が不足して全身が酸欠状態になり、その結果の一つとして立ちくらみが引き起こされるのです。
貧血の原因は様々ですが、以下のような要因が関係していることが多いです。
- 赤血球の材料となる鉄やビタミン不足
- 慢性出血による鉄の喪失過多
- 胃腸機能低下による鉄やビタミンなどの吸収障害
- 妊娠・授乳等による鉄やビタミンの必要量増加
貧血を持つ方で立ちくらみを主訴とされている場合は、貧血を改善する必要があります。
ただ不足した鉄やビタミンを補充するだけでなく、根本にある吸収障害等にも目を向けて改善を目指したいですね。
貧血やその栄養指導に関して、さらに詳しく知りたい方は当協会の以下の記事を参照にしてください。
貧血の原因から改善のためのアプローチまでとても詳しく解説しています。
貧血以外の原因
実は、貧血以外にも立ちくらみを起こす原因はたくさんあります。
よく言われるのは、脳への血流が一時的に低下することです。
寝ている状態等から急に身体を動かした時に、重力の関係で血液が足の静脈などにたまるため、脳への血流が一時的に減少することで立ちくらみが起こるのです。
通常は自律神経の働きによって心拍を上げることで立ちくらみが起こらないように対応しますが、自律神経が乱れていると立ちくらみが起こりやすくなってしまいます。
以下は脳への血流低下を起こす代表的な要因です。
自律神経の乱れ
自律神経の乱れがあると、脳への血流が低下した場合に心拍をあげたり血管を収縮させて対応する反射がうまく機能しなくなってしまうのです。
自律神経の乱れはストレスによって引き起こされることはよく知られていますが、それ以外にも生活習慣や食生活の乱れなども関連していることがわかっています。
例えばカロリー不足や空腹時間が長くなりエネルギー源が枯渇すると、身体は脂肪や筋肉を削ってエネルギーを作り出そうとしますが、これは交感神経が優位で起こるものです。
そして慢性的なカロリー不足になると、身体は生命活動を維持するために代謝を低下させることで対応しようとし、この状態では副交感神経優位となるのです。
このように食事も自律神経と繋がりがあるのです。
栄養不足
食事で十分な栄養を摂らないと、上記のように自律神経に影響するだけでなく、代謝が低下し血流が悪くなり立ちくらみに関連することも考えられます。
運動不足
運動不足で脚の筋力が低下すると、下肢に溜まった静脈血を押し戻す筋ポンプ作用が低下するため脳への血流不足が起こりやすくなると言われています。
脱水
脱水があると十分な血流が確保できずに立ちくらみが起こることが考えられます。
低血圧
普段から低血圧気味の人は元々血液を押し流す力が弱いので、一時的に心拍をあげたところで脳への血流をあげられないことも考えられます。
その他
また立ちくらみは貧血や脳への血流低下以外にも原因があり、脳神経や心臓などの異常に関連するものもあります。
これらは医療機関を受診して必要な検査や治療をする必要があります。
立ちくらみに対する栄養指導の内容
ここでは立ちくらみに対する実際の栄養指導の内容をみていきます。
問診で得た対象者の食事内容に改善点があるかどうかを探り、どのように改善していくか方向性を見出していきましょう。
摂取カロリーの適正化
栄養指導でまず取り組みたいのは適正カロリーを摂取することです。
カロリーが不足すると身体は十分なエネルギーが確保できず、代謝が下がることで血流が悪くなったり、自律神経の乱れを起こしかねず、立ちくらみを引き起こしてしまう可能性が高いからです。
厚生労働省の食事摂取基準では年齢・性別・活動レベル別に推定エネルギー必要量を定めています。
例えば、18〜49歳の活動レベルが普通の方は以下のようになります。
- 男性:2,650〜2,700kcal
- 女性:2,000〜2,050kcal
ただし、実際の適正カロリーは対象者の年齢・性別・身長・体重・活動量によって異なります。
問診で聞き取った対象者の情報をもとに、その人に合った適正カロリーを提示してあげましょう。
そこでおすすめなのはメディカルズ本舗というウェブサイトです。
以下の資料のように、性別・年齢・身長・体重・活動レベルを入力すると、必要推定エネルギー量を計算してくれます。
算出されたカロリー値と比べて、対象者の食事状況が少ないか多いかを判断することができますので、ぜひ活用してみてください。
参考:メディカルズ本舗
PFCバランスの適正化
栄養指導では、まず適正カロリーを摂取することが大切ですが、それと同じくらい大切にしたいのは食事バランスを整えることです。
身体がエネルギーを作り出したり、身体の機能を維持するためには様々な栄養素が必要となります。
栄養不足や栄養の偏りがあると、貧血や自律神経の乱れ等によって立ちくらみにつながることもあるため、食事バランスを整える必要があるのです。
具体的にはPFCバランスと言って、三大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)のバランスを整えることを目標にします。
PFCバランスとは総摂取カロリーに対する三大栄養素の比率のことで、厚生労働省の食事摂取基準では以下が理想の比率とされています。
- P:タンパク質 13~20%
- F:脂質 20~30%
- C:炭水化物 50~65%
PFCバランスをなぜ重視するかというと、三大栄養素を充足させるだけでなく、ビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養素も充足されやすくなるからです。
特に最近は若い人を中心に脂質過剰の食生活が目立っています。
身体のメインエネルギーである糖質が不足すると、身体は脂肪や筋肉を削ってエネルギーを作り出します。
これを糖新生と言いますが、効率が悪く身体に負担となってしまう上に、交感神経優位で起こるため、自律神経にも影響を与えるものなのです。
糖新生は適切な食事をしていても体内で行われていますが、PFCバランスを整えることで過度な糖新生を起こさせず、自律神経系への影響も軽減させることが大切です。
貧血の場合は鉄の摂取量の適正化
立ちくらみの背景には貧血があることも多いので、その場合は赤血球を作るために必要な鉄やビタミンB12・葉酸などビタミン類の摂取量も確保することが求められます。
厚生労働省が定める鉄・ビタミンB12・葉酸の食事摂取基準は以下の通りです。
鉄
- 18歳以上の男性:7.5mg/日
- 18~64歳の女性(月経なし):6.5mg/日
- 18~64歳の女性(月経あり):10.5~11.0mg/日
- 妊娠初期・授乳期の女性:9.0mg/日
- 妊娠中期・後期の女性:16.0mg/日
※女性の場合、月経の有無や妊娠・授乳の有無によって推奨量が変わることに注意
ビタミンB12
12歳以上の男性・女性ともに2.4μg/日
※妊娠中の女性は2.8μg/日、授乳中の女性は3.2μg/日
葉酸
12歳以上の男性・女性ともに240μg/日
※妊娠中の女性は480μg/日、授乳中の女性は340μg/日
ただし貧血に関しても大切なのは、鉄やビタミン類の補充だけでなく、なぜ鉄やビタミン類の欠乏が起こっているのかを探り根本にアプローチすることです。
貧血の根本にアプローチする栄養指導の詳細については、以下の記事で解説していますので、興味のある方はぜひ参考にしてみてください!
立ちくらみを改善・予防する食事のポイント
対象者が食生活を改善するためには必要なカロリーや栄養素を知るだけでは不十分です。
自分にとって必要なカロリーや栄養素を摂取するための方法についても具体的にアドバイスできるようにしましょう。
ここでは栄養指導で実際に提案する、カロリーやPFCバランスの整った食事をするポイントは何かについてお話しします。
食事の基本は定食スタイル
必要なカロリーや栄養素を充足する食事は、以下のような定食スタイルを目指すことで叶えられます。
主食 | ご飯、パンなど |
いも類・穀物など | 芋、かぼちゃ、オートミール、押し⻨、とうもろこし、栗など ※炭水化物の豊富な食品の小鉢 |
主菜 | 肉、魚、大豆、卵など |
副菜 | サラダ、野菜、きのこ、海藻類など |
汁物 | 味噌、海藻類など |
果物 | 旬の果物 |
乳製品 | チーズ、牛乳、ヨーグルトなど |
ポイントはご飯などの主食以外に、芋類やかぼちゃなどの炭水化物の豊富な小鉢をもう一品、それと果物を食べることで不足しがちな糖質をしっかり摂ることです。
そうすることでビタミン・ミネラル・食物繊維なども充足しやすくなるため、定食の形はまさに理想の食事となります。
鉄の摂り方
鉄不足による貧血のある方では、鉄の豊富な食材を取り入れるように指導することを意識したいですね。
鉄には動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品に含まれる非ヘム鉄のふたつがあります。
ヘム鉄と非ヘム鉄には吸収率の違いがあり、ヘム鉄は吸収率が15〜50%程なのに対して非ヘム鉄は3〜10%程と言われています。
貧血の栄養指導では、吸収率の良いヘム鉄の摂取を促されることが多いですが、実は非ヘム鉄も身体の状態等によっては吸収率が上がることがわかっています。
私たち日本人は古来から植物性食品を多く摂取してきたので、植物性食品も意識して取り入れたいですね。
以下に食材ごとの鉄の含有量を紹介します。
植物性食品からの非ヘム鉄と、動物性食品からのヘム鉄をどちらもバランスよく取り入れることで、鉄の摂取量を確保することが出来ます。
それには結局は食事バランスを整えることが重要なので、鉄の摂取のためにも定食スタイルの食事が有効であることを対象者に伝えてみてください。
規則正しく食べる
食事を見直す際には、食事の内容だけでなく食習慣も合わせて見直すことが必要です。
食事の理想は3食を均一に摂ることで、規則正しい食生活は自律神経を整えることにも繋がります。
朝食を食べないという対象者も多いかもしれませんが、活動量の多い日中のエネルギーを確保するためにも、朝食・昼食はしっかり食べられるように食事を提案していきたいところです。
また夕食については、夜は活動量が少なくなりますが睡眠中でもエネルギーは消費しています。
夜間低血糖が起こると睡眠の質が下がることも考えられるため、以下の資料のように朝・昼・夜を量も時間も均一に摂取することが理想です。
また、仕事の都合などで食間が空いてしまう場合には、エネルギー切れを起こさないように適宜間食を取り入れるなどアドバイスしたいところです。
カロリーアップや食事バランスの改善は少しずつ
現状の摂取カロリーが少ない場合はカロリーアップを、PFCバランスが乱れているときはそれを適正化することを指導しなくてはいけません。
しかし身体にも慣れというものがあるので、いきなり食事をガラッと変えてしまうと身体がそれに対応できずに、不調に繋がってしまうこともあるのです。
そのため以下のような工夫をして、身体に負担がかからないようなペースで食事の改善を目指しましょう。
- カロリーアップする場合は、週に約100kcalずつ徐々に増やしていく。
- PFCバランスを改善する際は、約5%(摂取カロリーが2,000kcal/日なら100kcal)ずつ変更する。
- 朝食を欠食していた人はまず果物やヨーグルトなど食べやすいものを少量からトライする。
- 食事を変更して体調に変化がでた場合は、無理せずに現状維持をして様子をみる。
例えばカロリーアップが必要な場合は、以下の資料のように今の食事に少しずつプラスをしながら、体調不良が起こらないかを確認しながら進めていきましょう。
また炭水化物と脂質それぞれの100kcal分のおおよその目安を以下にまとめましたので、参考にしてください。
炭水化物の多い食材 | 脂質の多い食材 |
・ご飯 茶碗半分 ・食パン 6枚切1枚 ・さつまいも 約1/2本 ・カボチャ 約1/6個 ・甘栗 11粒 ・バナナ 大1本 ・みかん 大2個 ・りんご 大1/2個 | ・豚バラ肉 1片(角煮サイズ) ・ウィンナー 2~3本 ・ベーコン 2~3枚 ・プロセスチーズ 40g ・マヨネーズ 大さじ1強 ・ごまドレッシング 大さじ2弱 ・唐揚げ 2個 ・コロッケ 1個 |
※炭水化物は約26g換算、脂質は約11g換算で、食品成分データベースをもとに作成
食事内容を改善するときは症状の有無を確認
それでは、食事内容を変更する段階で起こりうる体調の変化とはどういったものがあるのでしょうか。
起こりやすいものは低血糖症状と腹部症状です。
以下にそれぞれの症状を紹介します。
低血糖症状 | 異常な空腹感、倦怠感、いらだち、眠気、めまい、集中力低下など |
腹部症状 | お腹が張る、腹痛、下痢、便秘、食欲不振、ニキビ、発疹など |
例えば今まで脂質過剰の生活をしていた場合には、糖質の処理能力が下がっている可能性があります。
そこへいきなり糖質の摂取量をあげると糖質が代謝できずに血糖値が急上昇し、それを下げようとして血糖値急降下ということが考えられます。
また消化・吸収機能が低下している状況では、カロリーアップした時に摂取したものを上手く消化・吸収できずに腹部症状が出てしまう可能性があります。
栄養指導ではあらかじめこういった症状が出る可能性についても触れておき、身体の反応としては当然であることを説明しておきましょう。
そうすることで対象者も不安にならず、栄養指導に不信感を抱くことも避けられるので、継続して食事改善に取り組んでいけるのではないでしょうか。
立ちくらみの栄養指導をする上での注意点
ここまで立ちくらみの栄養指導の内容について触れてきましたが、栄養指導をする上では注意することも忘れてはいけません。
この章では立ちくらみの栄養指導をする上で気をつけたい点についてみていきましょう。
5-1. 立ちくらみの背景に病気が隠れている可能性
2章「そもそも立ちくらみはなぜ起こる?」でお話ししたように、立ちくらみには様々な原因があります。
時には脳神経や心臓などの命に関わるような病気が背景にある可能性だってあるのです。
他にも貧血が疑われる場合には、貧血の原因や種類を鑑別する必要があるかもしれません。
単なる立ちくらみだからといって症状をそのままにして、ある日失神してしまったりしたら大変です。
一度医療機関を受診してひと通り検査してもらい、医師の判断を仰ぐことも検討してもらいましょう。
栄養面や食生活などを整えるアプローチで良いのかどうか確認しておくことで、安心して栄養指導ができますね。
個別的な栄養指導を実践するには資格取得もおすすめ
ここまで、立ちくらみに対する栄養指導について問診から原因、食事の内容まで詳しくみてきました。
しかし一人一人の状態を把握し、その人に合わせた栄養指導をすることは容易なことではありません。
栄養の知識を持っているだけではなく、対象者の状況と栄養の知識を結びつけて判断するスキルが必要だからです。
より実践的な栄養指導のスキルを身につけるためには、資格取得を目指して知識や技術を再構築することもおすすめです。
特にこの記事を書いている臨床栄養医学協会の資格取得講座は、栄養学の知識を学べるだけでなく、一人一人違う生活背景などを考慮しながらその人に合った栄養指導を実践するスキルも身につけられます。
資格取得者にはサロンが用意されており、資格取得後も学びを継続できる環境が整っています。
興味のある方はぜひ当協会のウェブサイトを確認してみてください!
参考:臨床栄養医学協会
まとめ
この記事では、立ちくらみのある方に対する栄養指導について、その内容から方法、注意点まで詳しくお伝えしてきました。
立ちくらみの原因は様々であり、一人一人の状態をよく見極めて問題点を探ることが何よりも大切です。
そしてその根本の問題に迫る、個別的なアプローチをする栄養指導が立ちくらみの改善や予防につながるでしょう。
この記事が立ちくらみのある方への栄養指導を実践する手引きとなり、対象の方の立ちくらみが改善するきっかけとなれば幸いです。
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